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豪中銀、5月に続き、6月も利上げを決定
梅澤 利文
2023/06/06

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概要

今週はオーストラリア、カナダ、インドなどの中央銀行が金融政策決定会合を、来週の米国やユーロ圏の中央銀行の会合に先行して開催します。オーストラリアやカナダの中銀が直面する課題はインフレを抑制する必要性がある一方で、利上げの累積効果を見極めるには時間もかかり、判断が難しい問題です。米国やユーロ圏が直面する課題と共通する面もあるだけに、その決定内容に注目しています。




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豪中銀、5月に続き6月も市場予想に反して利上げを決定

オーストラリア(豪)準備銀行(中央銀行)は2023年6月6日の理事会で、過半の市場予想の据え置きに反し、政策金利を3.85%から0.25%引き上げて4.10%にすることを決定しました(図表1参照)。5月に続く引き上げとなり、4月の理事会での据え置きは、利上げの休止とはなりませんでした。

オーストラリアの労使裁定機関である公正労働委員会(FWC)は、6月2日に低賃金労働者を支援するため、全国最低賃金を7月から5.75%引き上げるとの決定を発表しました。FWCは同時に労使裁定による賃金も同率引き上げるとしており、より幅広い労働者の賃金に対して適用されることが見込まれます。

豪中銀が6月の理事会でも利上げを決定した背景は高いインフレ率と説明

豪中銀の最近の金融政策を振り返ると、4月4日の理事会ではこれまでの利上げの累積効果を見極めるとして政策金利を据え置きました。ただし豪中銀は利上げ終了でなく、再開の可能性を強調していました。

次に5月2日の理事会では市場が据え置きを見込む中、0.25%の利上げを決定しました。インフレ率の高止まりなどを理由としています。4月26日に発表された1-3月期の消費者物価指数(CPI)は前年同期比で7.0%上昇と高水準にとどまりました(図表2参照)。また失業率が50年来の低さなども理由としています。ただし、5月の声明では、次回以降の利上げにやや慎重な姿勢も示しました。

このような経緯を踏まえ、6月の理事会を前に市場では過半が据え置きを見込んでいました。5月18日に発表された4月の失業率は3.7%と前月に比べ上昇(悪化)しました(図表3参照)。同日に発表された雇用者数も前月比でマイナスと減少しており、依然高水準ながら、数字の上では労働市場のタイト感は和らぎました。賃金指数は前年同期比で3.7%と市場予想を上回ったものの、6月の再利上げを支持するには不十分と市場は判断したものと思われます。

なお、5月末に発表された月次のCPI(図表2参照)は4月が前年同月比6.8%上昇と、3月の6.3%上昇から加速しました。しかし、4月の数字が上振れたのは昨年4月の水準が低かったこともあり、判断が分かれるところです。

豪インフレ率は、最低賃金引き上げによる賃金上昇圧力で、高まる可能性

豪中銀が6月、先月に続いて利上げを決定した背景を声明文から確認すると、①インフレ率が7%程度と高いうえ上振れリスクもあること、②労働市場は若干緩和されたとはいえタイトで、賃金上昇リスクがあること、③期待インフレ率が高い点、などを指摘しています。

豪中銀が指摘した利上げ理由の中で、おそらく最も大切なのは賃金上昇リスクではないかと思われます。先に述べたように、オーストラリアでは7月から賃金の引き上げが予定されています。FWCが発表した内容は他の賃金動向に影響することも想定されることから、豪中銀は最低賃金引き上げなど今回(6月2日)の決定の直接的な効果に加え、波及的な動きにも注意を払っているのではないかと思われます。筆者は6月の利上げを予想してはいませんでしたが、賃金動向を踏まえると、あってもおかしくはないと考えていました。

わからないのは今後の展開です。声明文では今後の金融政策として①海外経済、②国内個人消費、③インフレ、④賃金動向、を挙げています。

①と②は足元利上げを見送る要因と思われます。①は欧米経済以外に、中国経済も念頭にあると思われるからで、中国の景気回復は期待外れの動きとなっています。また、豪国内消費は減速傾向です。一方で、インフレ率はピークアウト感はあるものの高水準で、賃金動向はインフレの上振れ要因と思われます。データ次第ながら、今夏に再度の利上げが行われる可能性も残されているようです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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