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ブラジル、レアル高は続くのか
梅澤 利文
2023/06/30

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概要

ブラジル中銀が6月27日に公表した議事要旨で、ブラジル中銀内部にも条件次第で利下げを支持する委員がいることが明らかとなりました。ブラジルのインフレ率低下が背景でしょう。もっとも、レアル高を支えてきた高金利政策が変更となれば、何らかの影響がレアルの動向に想定されます。過度なレアル安となることがないのかを占ううえで、注意すべきポイントを振り返ります。




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ブラジル中銀は議事要旨で、インフレ改善の場合の利下げ開始を示唆

ブラジル中央銀行は2023年6月27日に金融政策決定会合(COPOM、20-21日開催)の議事要旨を公表しました。COPOMでは政策金利は市場予想通り、13.75%に据え置かれました(図表1参照)。しかし、議事要旨では、インフレ状況が落ち着けば、次回8月会合で「控えめな」利下げが検討される可能性が示唆されています。

ブラジルの財務相、企画予算管理相、中央銀行総裁で構成する国家通貨審議会(CMN)は29日、新たに2026年の物価目標を3%(許容範囲は±1.5%)に設定した上で、目標達成の時間軸を従来の1年から事実上2年へ修正することを全会一致で決定したと発表しました。

ブラジルが利下げとなったら、レアル安に転じるのだろうか?

ブラジル中銀の議事要旨で一部の委員からインフレ率の低下など条件次第ながら、利下げを支持する動きがあることが示されました。ブラジルのインフレ率を(拡大)消費者物価指数(IPCA-15、27日発表)でみると、6月分は前年同月比約3.4%上昇と、一段と鈍化しました(図表2参照)。ブラジルの通貨レアルは高水準の政策金利などを背景に堅調に推移してきました。今後想定される利下げがレアル安につながる恐れはないか、注目すべき要因について、以下で検討します。

まず、利下げに対するサプライズですがこの可能性は低いと思われます。金融政策を反映する傾向がある2年国債利回りはすでに低下傾向で、その日を待ち構えている格好です(図表1参照)。

次にブラジル中銀の姿勢が変化するリスクですが、この点も心配はなさそうです。将来的な利下げはインフレ率の明確な低下など条件を確認したうえでの利下げと、慎重に金融政策を運営する姿勢を維持しています。仮に利下げをするとしても控えめな利下げにとどめるならば、レアルへの影響はある程度抑えられると思われます。

ただし、政策金利に対する政治からの圧力には注意が必要です。ブラジルのルラ大統領は利下げ支持を表明し圧力をかけてきました。

もっとも、26年の物価目標の水準が市場予想通りに3%で設定されたことはレアルの下支え要因とみられます。政権からは4.5%に設定して、利下げしやすい環境を整える声も聞かれました。しかし、財務相、企画予算管理相が参加するCMNで全会一致で物価目標が3%に設定されたのは、一応の安心材料と思われます。

財政政策も新たな枠組みが維持されるならばレアル高要因とみられるが

ブラジルの財政政策もレアルの変動要因となる傾向がみられますが、足元では下支え要因として寄与しているようです。議会ではブラジル政府が今年3月末に提案した新たな財政の枠組みが審議されていました。左派政権による放漫財政が懸念されたブラジルですが、提案された枠組みでは、歳出抑制と、プライマリーバランス(基礎的財政収支、必要経費を税金で賄うイメージ)目標(図表3参照)で構成されています。歳出はインフレ率で調整した範囲に収めるといった内容で、プライマリーバランスの黒字化には歳入の確保が求められます。具体的な目標値は24年から26年のプライマリーバランス対GDP(国内総生産)比率が、それぞれ0.0%、0.5%、1.0%、となっています。

図表3にあるように、コロナ禍の影響で同比率は大幅に悪化した後改善しました。新たな財政の枠組みは今後の黒字定着を求めています。

新たな財政の枠組みへの期待は、信用格付けを改善させる兆しとなっています。S&Pグローバル・レーティング(S&P)は6月14日にブラジルの格付け見通しを強含み(ポジティブ)とし、将来の格上げの可能性を示唆しました。S&Pはブラジルの現在の格付けをBB-と低水準の格付けとしていますが、財政改革への動きを評価しています。ただし、プライマリーバランス対GDP比率目標が達成できても、ブラジルの債務残高対GDP比率の改善は小幅とS&Pは見込んでおり、道のりは長いようです。

この点は、今後のレアルのリスクを考えるうえで参考になりそうです。新たな財政の枠組みが機能することが期待されます。しかし、財政は時間がかかるプロセスであることから、政治に忍耐が求められます。しかし場合によっては財政拡大への政治圧力再燃のリスクも残されていると思われます。

また、物価目標で(ルラ大統領は)矛を収めた格好ですが、政治による利下げ圧力は残るとみられます。中央銀行による独自の判断でなく、金融緩和を迫られての利下げを、市場は嫌う傾向があるだけに今後も注意は必要です。

単に利下げをしたということで、極端なレアル安が進行するとは考えていませんが、仮に利下げとなった場合、その後に注意すべき点も多いと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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