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6月米雇用統計、悩みは尽きない
梅澤 利文
2023/07/10

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概要

今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)における決定を占ううえで、インフレ率とともに雇用統計に対する注目度は高まっています。そうした中、6月の米雇用統計は比較的堅調な賃金動向と失業率が発表された一方で、非農業部門の就業者数は市場予想を下回るなど強弱入り混じった内容でした。今後の展開を定めるよりは、迷いを深める結果であったとみています。




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6月の雇用統計で非農業部門の就業者数は市場予想を下回る

米労働省が2023年7月7日に公表した6月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比20.9万人増と、市場予想の23万人増、前月の30.6万人増を下回りました。部門別の就業者数の伸びでは、教育・医療や政府、図表にはありませんが建設などといった部門で増加がみられました(図表1参照)。一方、小売りや、人材派遣、運輸・倉庫などで雇用が減少しました。

失業率は3.6%と、市場予想に一致し、5月の3.7%から低下しました。平均時給は前年同月で4.4%上昇と、市場予想の4.2%上昇を上回り、前月と同水準でした。前月比でも0.4%上昇し、市場予想の0.3%上昇を上回り、前月と同水準でした。

平均時給が高止まりの様相を見せている点には注目

7日の6月米雇用統計に先立ち発表された他の雇用関連指標が概ね堅調であったことから注目度が高まった今回の雇用統計では、非農業部門の就業者数が市場予想を下回りました。しかし平均時給は高止まり傾向であるなど、米労働市場の堅調さも示されています(図表2参照)。

まず、6月の非農業部門の就業者数の増加ペースは低水準ではありませんが先月に比べ軟化の兆しが見られます。例えば主な部門別の就業者数の変化をみると、5月は幅広い部門で就業者数が増加しました。しかし6月は小売りなどが前月比でマイナスに転じています。また、雇用動向の先行指標となる傾向がある人材派遣も6月はマイナスに転じました。5月は2月からの減少傾向から一時的にプラスに反転しただけなのかもしれません。

一方、平均時給は前年同月比で4.4%上昇と、3ヵ月連続して同水準となっています。前年比でみた平均時給の伸びはコロナ禍前を上回っており、仮にこの水準での推移が続くようであれば、当局に金融引き締めが求められることも考えられます。

もっとも、平均時給の短期的動向を前月比で部門別にみると注意点も浮かび上がります(図表3参照)。例えば、6月の平均時給をけん引した部門の一つは製造業の前月比0.7%の上昇ですが、このペースはやや高いとみられます。部門別の平均時給は変動が大きいケースもあり注意が必要です。一方、小売りや娯楽・接客など非農業部門就業者数の7割程度を占めるサービス部門の平均時給は0.3%の上昇で、5月の0.4%上昇を下回っています。米連邦準備制度理事会(FRB)が賃金動向で注目しているのは主にサービス部門であると思われます。全体の平均時給が前月比0.4%上昇と市場予想の0.3%上昇を上回った点だけに注意を払いすぎないことも必要と考えます。

金融引き締め局面で低位に安定する失業率だが、質には問題の兆しも

6月の米雇用関連統計で底堅さを見せたのが失業率の3.6%への低下です。5月は3.7%と4月の3.4%から急上昇しましたが、いったん落ち着いた格好です(図表4参照)。家計調査で失業率算出の項目を確認すると、6月の就業者数は27.3万人程増加(事業所調査の数字とは異なる)した一方で、失業者数は前月比で約14万人減少しています。数字では雇用の強さがうかがわれます。

ただし、質の点では注意が必要です。より労働市場の実態を反映するともいわれるU6失業率(通常の失業者に加え、フルタイムを希望しているにもかかわらずパートタイムでの仕事を余儀なくされている労働者などを幅広く失業者としてカウントして算出)は6月が6.9%と、先月の6.7%を上回っています。経済的な理由からパートタイムで勤務する労働者が今後増えるとすれば、雇用市場悪化の兆しとなる可能性も考えられるだけに今後の展開に注意は必要です。

今回の米雇用統計は、引き続き労働市場の堅調さが示される一方で、不安の兆しも見られました。それでも、6月の米雇用統計が市場の7月の追加利上げ予想に対して与える影響は限定的とみられます。しかし、2回目の追加利上げ予想については、わずかながら迷いが増えたように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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