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- ECB、今後の政策はデータ次第が鮮明となった
7月のECB政策理事会は市場予想通りの結果でしたが、次回以降の政策方針についてのヒントは限定的で、データ次第の運営を続けることが示唆されました。市場ではユーロ圏の景気減速は深刻で利上げは今回が最後という見方もあります。ただしユーロ圏の労働市場は底堅く賃金動向などには引き続き注意も必要です。オープンな姿勢で経済指標を注視する必要があるようです。
ECBは市場予想通りの利上げ、しかし9月の政策理事会での方針は示さず
欧州中央銀行(ECB)は2023年7月27日の政策理事会で、市場予想通り0.25%の利上げを決定しました。主要政策金利を4.25%、銀行が中央銀行に預ける際の中銀預金金利(預金ファシリティ、実質的な政策金利)を3.75%に引き上げました。
ECBは利上げの理由としてインフレ率の高止まりを指摘し、インフレ率を中期的な目標の2%まで確実に戻すために必要と説明しています(図表1参照)。声明文でもインフレについて「高すぎる状況が長引く」という決まり文句が使われています。しかし、その決まり文句の前に、「インフレ率は低下し続けている」が置かれており、ECBはインフレ率のピークアウト感を認識していることを明確にし、景気動向などへの配慮を示唆する内容となっています。
ECBの利上げによる景気押し下げの影響を確認できる面もある
7月のECB政策理事会の利上げそのものは確実視されていたことから、注目は9月以降の政策動向に関するヒントとなっていました。しかしながら、ECBのラガルド総裁は会見で今後の利上げか据え置きかの政策決定はデータ次第であることを繰り返し強調し、9月の政策決定は経済指標を受けての判断であることを示唆しました。
市場ではECBの引き締め姿勢が弱まったとの見方が増えたように思われますが、据え置きに転じると断じるには決め手に欠ける面もありそうです。
まず、足元のデータとして7月25日に発表されたユーロ圏の4-6月期銀行貸出データを見ると、企業、家計(住宅)向けともに資金需要は弱い数字となっています(図表2参照)。利上げによる需要の押し下げの影響が確認されます。企業向けは前期からさらに需要が減速しました。利上げの影響とみられますが、利上げの効果は通常時間の遅れ(ラグ)を持って表れることを考えれば、引き締め過ぎを懸念する水準に近付いているように思われます。
なお、家計向けは1-3月期からは改善していますが、前期は金融不安の影響で貸出需要が通常より悪化した可能性があります。また、前期より改善したとはいえ、4-6月期の水準は過去の景気悪化局面(欧州債務危機やコロナ禍)と肩を並べる水準です。ユーロ圏では銀行貸出しが経済への重要な資金供給経路だけに、利上げの影響が大きくなっていることがうかがえます。
ECBの月次調査によるとユーロ圏の消費者は過剰貯蓄の大半を非流動性資産に投資している可能性があります。利上げを受けた利回り上昇で債券などに資金をシフトした模様です。その場合、見た目の過剰貯蓄の額に比べ消費が活発とならない可能性もあります。利上げの影響は意外な経路で経済に影響を与えることも考えられます。
労働市場の堅調さは維持されており、賃金上昇の可能性も残る
利上げによる景気押し下げの影響の証拠は増えつつある一方で、ユーロ圏の労働市場は堅調さを維持しています。このような中、ユーロ圏の賃金は足元、急上昇しています(図表3参照)。
ユーロ圏の代表的な賃金指標である妥結(交渉)賃金は開示が遅く、1-3月期が最新となっています。ピクテではインフレ率など賃金動向に影響を与える指数から今後の賃金上昇率を推定していますが、ユーロ圏の賃金上昇率のピークは23年後半になるとみています。したがって、ECBの利上げが今回7月が最後と決めつけるのは時期尚早で、再度の利上げの可能性も十分残されているとみています。なお、ラガルド総裁は会見で賃金とインフレのスパイラル的な上昇までは否定しており、賃金上昇を背景に過度な物価上昇が引き起こされる可能性は低いと思われます。
もっとも、先の過剰貯蓄の例のように、コロナ禍後の経済動向や金融政策の波及経路は複雑で、過去の経験則通りとならないケースも見られます。今後発表されるデータを確認し、数字そのものより、その背景を理解することが重要と考えます。
次回のECB政策理事会(9月)までの主な経済指標と注目点は図表4のとおりです。賃金データは図表4に掲載していませんが4-6月期が9月の政策理事会前に発表されるかもしれません。また、8月のジャクソンホール会議にラガルド総裁が参加するとすれば、それも注目されそうです。
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