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市場予想を下回った10月のユーロ圏PMIの含意
梅澤 利文
2023/10/25

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概要

10月のユーロ圏PMIは製造業、サービス業共に市場予想を下回るとともに、景気拡大・縮小の目安となる50を下回りました。欧州中央銀行(ECB)の利上げの累積効果が需要を押し下げた結果とみられます。ユーロ圏のインフレ率は、依然物価目標を上回りますが、減速傾向は明確となりつつあります。また賃金上昇も落ち着き始めたことから、ユーロ圏の利上げは前回(9月)が最後となる可能性もありそうです。




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10月のユーロ圏PMIは製造業、サービス業共に市場予想を下回る

S&Pグローバルが2023年10月24日に発表した10月のユーロ圏の製造業購買担当者景気指数(PMI、速報値)は43.0と、市場予想の43.7、前月の43.4を下回りました。これにより、同指数は景気拡大・縮小の目安である50を16ヵ月連続で下回ることとなりました(図表1参照)。10月のサービス業PMIは47.8と、市場予想の48.6、前月の48.7を下回りました。10月の総合PMIは46.5となり、同指数は5ヵ月連続で50を下回りました。

国別にみると、ドイツの製造業PMIは市場予想を上回るも40.7と低水準にとどまっています。サービス業PMIも48.0と再び50を下回っています。フランスは、10月に製造業PMIが悪化しました。

ユーロ圏の景況感は来年にかけて悪化する可能性もある

同日に発表された米国のPMIが堅調であったのとは対照的に、ユーロ圏のPMIは景気後退の可能性さえをも示唆する内容でした。PMIが示すように、ユーロ圏景気の先行きに明るい兆しが見られない中、10月31日に発表が予定されている7-9月期の実質GDP(国内総生産)成長率も気になるところです(図表2参照)。前期比は4-6月期が0.2%増とプラスを確保しましたが、その前2四半期はほぼゼロ成長でした。

ユーロ圏の7-9月期GDP成長率について市場予想をみると前期比で0%前後と、4-6月期を下回ることが見込まれています。10月のユーロ圏PMIがさらなる減速傾向を示していたことから、ユーロ圏は年後半から来年にかけて形式的な景気後退に陥ることも懸念されます。

ユーロ圏の景況感が急速に悪化した背景として、利上げによる景気押し下げ、製造業の不振、サービス業の回復のペースダウンなどがあげられます。

欧州中央銀行(ECB)の利上げが景気に与える影響は24日に発表された四半期毎貸出調査に示されています。利上げ開始後、ユーロ圏の貸し出しの伸びは急減しています。今回の調査では4-6月期に比べ貸出態度がさらに厳格化しています。貸出態度の厳格化は企業のみでなく、家計にも幅広く及んでいます。

製造業は主要貿易相手国である中国の景気回復が鈍いことによる輸出産業の回復の遅れなどが景気の下押し要因となっています。

コロナ禍後の観光産業や娯楽・接客業の回復がサービス産業の景況感の押し上げ要因となっていました。しかし、観光客数はコロナ禍前の水準をほぼ回復したというデータもあります。コロナ禍後の反動増から通常モードへの回帰による景気回復の一服感が当面はハイライトされそうです。

ユーロ圏の景気回復の鈍さなどを背景にECBは政策金利を据え置く公算

もっとも、ユーロ圏景気が底割れして深刻な景気後退に直面するとの見方は少ないようです。PMI以外の景況感指数の中には、水準は低いものの、景気悪化に底打ち感も見られます(図表3参照)。

例えば、欧州経済センター(ZEW)が発表した10月のドイツ景気期待指数はマイナス1.1と、市場予想のマイナス9.0、前月のマイナス11.4を大幅に上回りました。ユーロ圏のインフレ率は4%台と高水準ながら、減速傾向は明確で利上げ圧力は和らぐとの期待もあるようです。また、深刻な景気後退が懸念された昨年と異なり、冬の暖房シーズンを前に、エネルギー価格が昨年に比べ安定していることなどもユーロ圏景気が底割れまではしないとの見方を支えていると思われます。

このような中、ECBは10月26日に政策理事会の開催を予定しています。筆者の予想は、他の市場予想同様、政策金利を据え置くと見込んでいます。景気への配慮が主な理由で、先のユーロ圏の貸出調査の結果は据え置きへの確信度合いを高める内容でした。マネーサプライの伸びも前年比でマイナス圏であることなどから、利上げの最終到達点(ターミナルレート)に達したとも見ています。インフレ率は依然物価目標を大幅に上回っていることから、当面現行水準での据え置きを想定しています。なお、ユーロ圏の賃金上昇は足元のデータでは横ばいとなっています。賃金上昇によるインフレ率の再加速の可能性が少ないとみられることから、据え置きで物価動向を様子見するとみています。

今後、ECBの政策運営で注目されるのはECBのバランスシート(B/S)縮小戦略です。特に、国債購入政策(APPとPEPP)で積み上げた保有国債への対応が注目されます。APPは縮小を開始していますがペースは遅く、PEPPに至っては24年末まで保有国債の償還分は再投資して残高を維持する方針です。ECBは以前から、B/S縮小の考え方をペーパーなどで発信しており、筆者も注目していましたがアイデアだけで止まっていた印象です。次回の理事会でB/S縮小戦略の詳細は公表されないかもしれませんが、今後の対応に高い関心を払う必要があるとみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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