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11月の米CPI、最後の1マイルの難しさを示唆
梅澤 利文
2023/12/13

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概要

11月の米CPIは概ね市場予想通りで、全体としてインフレ率は鈍化傾向にあると見られます。しかしながら、サービス価格の低下ペースは緩やかで、品目によっては再上昇の動きも見られます。インフレとの戦いは最終局面に近づいているようですが、ここからの低下に意外と時間がかかる可能性も残されています。利上げ局面は終了したと思われますが、市場の利下げ期待に行き過ぎはないか注意しています。




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11月の米消費者物価指数はインフレ鈍化は続くも、先行きの長さを示唆か

米労働省は2023年12月13日に11月の消費者物価指数(CPI)を発表しました(図表1参照)。前年同月比は3.1%上昇と、市場予想の3.1%上昇に一致するも、10月の3.2%上昇を下回りインフレ鈍化傾向を持続しました。一方、変動の大きい項目を除いたコアCPIは前年同月比で4.0%上昇と、市場予想、10月(共に4.0%上昇)と同水準でした。

物価の短期的動向を反映する前月比では11月のCPIは0.1%上昇と、市場予想、10月(共に横ばい)を上回りました。コアCPIは前月比で0.3%の上昇と、市場予想の0.3%上昇に一致し、10月の0.2%上昇を上回りました。品目によっては価格が下がりにくいことが示され、インフレ率が物価目標へ低下する道のりは長いことが示唆されました。

11月の米CPIの上昇要因を寄与度で見ると、大半はサービス項目による

11月の米CPIは、物価の傾向を反映する前年同月比で見ると概ねインフレ鈍化傾向の継続が見られるものの、鈍化ペースは緩やかです。その背景を物価の短期動向を反映する前月比で振り返ります。CPIの前月比の構成をエネルギー、食料品、財、及びサービスの各項目に分類し、各項目の寄与度を参照しながら物価変動の内容を検討します(図表2参照)。

まず、寄与度で物価の下押し、押し上げ項目に分類すると、下押し項目は前月に続いてエネルギーと中古自動車や衣料品などで構成される財項目でした。一方、押し上げ項目は主にサービスで、食料品の寄与は限定的でした。

押し下げ要因のうち、エネルギー項目では、ウェイトが約49%と半分程度を占めるガソリン価格が前月比マイナス6.0%と下落したことが下押しの背景です。ただし電力やガスは前月比上昇したように、エネルギー価格全体が幅広く下落したわけではありません。ガソリン価格の下落だけで今後もエネルギー価格の下落が続くのか、疑問も残ります。

財価格は11月が前月比マイナス0.3%と、先月のマイナス0.1%からマイナス幅が拡大しました。財項目に含まれる品目を見ると、衣料品、テレビを含めたオーディオ機器、家庭向け情報機器が前月比で大幅な下落となっています。値段が下がった品目から判断して、おそらく年末商戦での値引きセールが下押し要因の1つになった可能性がありそうです。

一方で、中古車価格は前月比1.6%上昇と、自動車パーツなどと共に財価格の押し上げ要因となっています。財項目に含まれる医療用薬品の価格も堅調な伸びとなっています。

もっとも、中古車価格の実際の取引価格を見ると、引き続き鈍化しており、11月の上昇は一時的となる可能性もあります。財価格全体は、値引きという下押し要因は今後消滅する可能性があるものの、持続的な上昇要因も限られていると見られ、低水準での推移が続くと思われます。

米CPI、サービス価格の動向によっては減速ペースは緩やかとなる可能性

11月のCPIの動向を左右した最大の要因はサービス価格で、前年同月比で5.5%上昇と、10月の5.5%上昇と同水準で、減速ペースが停止しました。(図表3参照)。サービス価格を主に賃料と帰属家賃(持ち家を賃料換算した家賃)で構成される住居費と、除く住居費に分けてみると、11月の住居費は前年同月比で6.5%上昇と依然高水準である点が気がかりです。米国住宅市場は住宅ローン金利の上昇などを受け悪化が続いています。通常、賃料や帰属家賃は住宅市場の動向に遅行する傾向があります。米住宅市場の動向に近いとされる米大手住宅情報サイトの賃料指数は低下傾向が続いており、米CPIの賃料なども今後一段と伸びが低下するとみられています。それでも、減速ペースの遅さは気がかりです。

より懸念されるのは住居費を除いた11月のサービス価格は前年同月比で4.1%上昇と、10月の3.9%上昇を上回り、今後も物価の減速を妨げる要因となる可能性がある点です。なお、サービス価格から住宅関連を除く場合、賃料と帰属家賃を除く指数がよく用いられますが、ここではホテル宿泊価格なども含む住居費(Shelter)を除いています。このベースでサービス指数の構成割合を確認すると、住居費が約6割、住居費を除くサービスが約4割で構成されています。住居費が経験則通り低下したとしても、住居費を除くサービス価格が最近のように横ばい続きなら、CPI全体も減速しにくくなることが懸念されます。なお、サービス部門の価格動向は賃金が大きく左右する傾向があります。米国ではストライキの増加で賃金が低下しにくい環境です。米コーネル大の調査に基づくと、今年の米国のスト参加者は約49.2万人と、昨年の22.4万人を大幅に超えるとの報道もあります。賃金上昇圧力は落ち着きを見せているとはいえ、賃金は高水準の推移が続くものと思われます。

米国のCPIは最後のもうひと下げに意外と時間がかかる展開も想定されます。市場には米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げは春頃との見方もあるようですが、多少後ずれを見込んでいます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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