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12月の米雇用統計、底堅い一方で判断に迷う面も
梅澤 利文
2024/01/09

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概要

米政策金利は引き締め領域にあると見られますが、それでも今回の米雇用統計は、非農業部門の就業者数の伸び、失業率、平均時給共に堅調な数字で米労働市場の底堅さが示されました。ただし、内容を見ると労働市場の強さに疑問が残るものや、今後の動きを確認する必要があるデータも含まれ判断に時間も必要です。利下げ開始はメインシナリオながら、開始時期の見極めに慎重さが求められます。




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12月の米雇用統計は非農業部門の就業者数が市場予想を上回った

米労働省が2024年1月5日に発表した23年12月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比21.6万人増と、市場予想の17.5万人増、11月の17.3万人増(速報値の19.9万人増から下方修正)を上回りました。教育・医療、政府部門などが伸びをけん引しました(図表1参照)。

家計調査に基づく失業率は3.7%と、市場予想の3.8%を下回るも、前月の3.7%から横ばいとなりました。

平均時給は前月比0.4%上昇と、市場予想の0.3%上昇を上回りました。前月は0.4%上昇でした。前年同月比では4.1%上昇と、市場予想の3.9%上昇、前月の4.0%上昇を上回りました。

米労働市場、12月の雇用の伸びの判断には慎重さも求められる

昨年12月の米雇用統計は就業者数や平均時給が市場予想を上回り、米労働市場の底堅さが示されました。米雇用統計は市場が想定する米連邦準備制度理事会(FRB)の早期の利下げ開始観測を幾分遅らせる働きがあったと思われます。しかし、その内容を見ると米労働市場が再加速しているという証拠は乏しいように思われます。

非農業部門の就業者数は12月に前月比で、好不調の目安とされることもある20万人を超えました。しかし、11,10月が共に下方修正されたこともあり、前月比の3か月移動平均は約16.5万人と、21年1月以来の低水準でした。20万人のように、ある特定の数字を、しかも単月で、判断基準にするのは「わかりやすい」話に便利ですが、やはりデータを判断するうえでは内容に注意も必要です。

例えば、非農業部門の就業者数を部門別にみると、就業者数を押し上げたのは景気動向の影響を受けにくい教育・医療や政府部門などが含まれています。反対に今後の雇用動向を反映する傾向がある人材派遣は前月比でマイナス幅が拡大しました。もっとも、人材派遣の先行指標としての信頼性が最近やや低下している印象はありますが、いずれにせよもうしばらく様子を見たいところです。

また、娯楽・接客や小売は11月に比べ12月分の伸びは改善しており、就業者数の伸びには部門への広がりも見られました。図表1にはありませんが建設や会計などを含む専門職部門も12月の伸びは前月を上回りました。しかし、一方で金融や製造業などの部門では雇用が伸び悩みました。雇用の幅広い回復とはならなかったようです

また、雇用の伸びが前月を上回った娯楽・接客や小売業は年末要因で増加した可能性もあることから今後の動きに注意しています。

平均時給は市場予想を上回ったが、労働市場の過熱感とは考えにくい

次に賃金動向を平均時給で振り返ります。平均時給を前月比で主な部門別にみると、FRBが注目するサービス部門は前月比で0.5%上昇と前月を上回り、製造業も0.5%上昇となっています(図表2参照)。

もっとも、サービス部門を構成する小売部門は、サービス部門全体に占める構成割合が約14%と比較的高く影響が大きい一方で、平均時給は0.8%上昇と持続性に疑問が残ります。季節的な要因で底上げされた可能性などが考えられます。

また製造業の中には輸送機器部門のように全米自動車労働組合(UAW)のストライキによる賃上げの妥結により、平均時給が押し上げられた可能性があり、今後のデータを待って特殊ケースであったのかを判断する必要もあります。

12月の平均時給にはテクニカルな理由で上昇バイアスがあったとも考えられます。さらに、週平均労働時間(図表3参照)との整合性に違和感も覚えます。12月の数字だけを見ると、働く時間は少なく、もらえるお金は多い、ようにも見えます。労働市場に過熱感があるならば通常は労働時間も増加することから、この時期にたまたま起きた事象である可能性もあります。今後これらのデータがどのように変化するかに注目しています。

12月の米雇用統計は他にも、労働参加率が前月の62.8%から、12月は62.5%に低下しました。労働市場参入の流れが止まったようにも見えますが、単月のデータでは理由を特定しにくく、今後の数字の確認が必要です。

最後に、12月の米雇用統計と同日に発表された米ISM非製造業景況指数では、雇用指数が43.3と、市場予想の51.0、前月の50.7を大幅に下回ったことも、雇用動向の先行きに不安を投げかけました。非農業部門の就業者数が市場予想を上回った米雇用統計とISM非製造業景況指数の雇用指数のどちらを重視するべきなのか市場には迷いも見られます。

何が正しいのかは筆者も苦慮しています。ただし、米雇用市場は過去の過熱局面から正常化へ進行している過程と認識しており、その過程で現状、様々なシグナルが発せられていると理解しています。そうした中、先行きについては景況指数の方に若干ながら優位性があるのではと考えています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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