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インドネシア大統領選挙と金融政策について
梅澤 利文
2024/02/22

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概要

24年はグローバルに選挙が多い年です。米国などで今後実施が予定される中で、インドネシアで選挙が実施されました。現職のジョコ大統領は規定で出馬ができなかったものの、調査機関の暫定結果などからジョコ路線継承を掲げたプラボウォ氏が大統領となることが確実視されています。こうした中、インドネシア中央銀行はルピア安を防止して物価安定を重視した政策運営を維持する模様です。




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インドネシア大統領選挙と国会議員選挙で異なる結果となった

インドネシアで、24年2月14日に大統領選挙と国会議員選挙(一院制、定数580議席)が投開票されました。大統領選挙はプラボウォ国防相、アニス前ジャカルタ特別州知事、ガンジャル前中部ジャワ州知事の3氏が争いました。最終結果は選挙管理委員会が3月20日までに公表する最終集計を待つ必要はありますが、民間調査機関の開票速報で現職のジョコ大統領の政策の継承を掲げたプラボウォ氏の得票率が6割弱となったことから、プラボウォ氏は勝利宣言をしました。

一方、国会議員選挙では、現在の議会で最大議席を占め、大統領選でガンジャル氏を擁立した闘争民主党が得票率で第1党となりました。プラボウォ氏が率いるグリンドラ党の得票率は伸び悩み、第3党に甘んじています。大統領選挙で勝利宣言をして次期大統領候補となったプラボウォ氏ですが、仮にプラボウォ政権が発足しても議会では少数与党となる可能性があります。

インドネシア中央銀行(BI)は2月21日、政策金利である7日物リバースレポ金利(BIレート)を市場予想通り6.00%で据え置くと発表しました。ワルジヨ総裁は記者会見で、24年後半に金融緩和余地が生じる可能性があるとしながらも、今後の環境次第であることも浮き彫りとなりました。

インドネシアの選挙結果は通貨にプラス要因とマイナス要因の可能性

インドネシア中銀は大統領選挙と国会議員選挙後初の金融政策決定会合を開催し政策金利を据え置きました(図表1参照)。選挙が終わったからという理由だけで政策変更することなく、ルピア安防止による物価の安定を金融政策の方針として維持し続けると思われます。この方針を維持するうえでのポイントを整理します。

まず、大統領選挙ですが、投票結果はルピアにプラス要因と思われます。ジョコ路線の維持は市場に安心感を与えるからです。インドネシアの大統領選挙で当選するには有効投票の過半数の得票が求められます。最終結果が判明するのはこれからで、現段階では調査機関の暫定結果などからプラボウォ氏が「当確」の状況ではあります。暫定結果通りとなる公算は極めて大きく、過半数獲得が確定すれば、上位2候補による決戦投票は回避されます。万一決選投票となればバラマキ政策を公約として掲げ、新政権での財政悪化も懸念されるだけに、決戦投票の回避はルピアを下支えする要因とみられます。

一方で、国会議員選挙の結果はマイナス要因となる可能性もあります。プラボウォ政権が発足しても議会では少数与党となる可能性があり、政策運営で苦慮することも懸念されるからです。今後、国会議員選挙の最終結果公表を受け連立工作が本格化すると思われますが、連立与党で過半数議席を獲得できるのか予断を許さない状況です。プラボウォ氏が率いるグリンドラ党の得票率が伸び悩んだことに加え、連立の可能性があり、現職のジョコ大統領の次男であるカエサン氏が党首を務めるインドネシア連帯党の得票率は3%を下回った模様です。インドネシア議会の議席獲得には4%の得票率が求められることから、議席獲得は困難と思われます。

プラボウォ氏はジョコ大統領の長男ギブラン氏を副大統領候補として選挙に勝利しました。しかも、ギブラン氏の立候補は、憲法裁判所が正副大統領候補の年齢制限を唐突に緩和したことで出馬が可能となったもので正当性に疑問も残ります。ジョコ大統領の人気にあやかった選挙戦は「縁故主義」として批判も多く見受けられました。

現在のインドネシア議会でジョコ大統領を支持する政党は8割程度です。ジョコ大統領の国民からの人気を受け反ジョコ勢力は少数でした。プラボウォ氏の連立工作はこれからですが、ジョコ大統領のような安定的な議会運営ができる与党体制を構築できるのかは今後の課題です。

インドネシアのインフレは鈍化傾向ながら、利下げを慌てない姿勢

次に、インドネシアの経済環境を振り返ります。

インドネシアの24年1月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比で約2.6%上昇しました。物価変動の大きい項目を除いたコアCPIは約1.7%上昇しました(図表2参照)。CPI、コアCPIともにインドネシア中銀の物価目標(2.5%±1%)の範囲に収まっています。商品価格の下落やドル高一服がインフレ率低下の背景と見られます。インフレ率がこの水準であれば、必要(インドネシアの政策金利を中立的に戻す)なら利下げをする余裕はありそうにも思えます。

インドネシアの実質GDP(国内総生産)成長率は23年の各四半期は前年同期比5%増前後で推移するなど比較的底堅い動きでした。ただし、先行きについては先進国の景気減速や中国の景気動向など不安要因も見られます。そうした中、インドネシアの政策金利は幾分引き締め領域にあるとみています。足元の成長率から、短期的に利下げされる可能性は低いと思われますが、次の一手は利下げと思われます。

利下げはルピア安要因であることから、インドネシア中銀はルピアへの影響が少ないタイミングでの利下げを模索すると思われます。具体的には、米国の利下げを待つ構えと見られます。利下げの時期として、インドネシア中銀のワルジヨ総裁が示唆する24年後半は、インドネシアの政治動向の落ち着きを見極める時間を考え合わせても、可能性が高いように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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