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東京都区部CPIの注意点と注目点
梅澤 利文
2024/03/29

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概要

全国CPIに先行指標となる東京都区部CPIの3月分が発表されました。コアCPIの伸びは2月から鈍化したものの、電気代やガス料金には補助金の影響もあるなど、解釈には注意が必要な点がいくつか見られます。一方で、エネルギー価格の上昇圧力は弱まりつつあり、今後、日銀の物価目標を安定的に達成するにはCPIに占める構成割合が高いサービス価格主導の物価形成が何よりも求められます。




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東京都区部コアCPIは2月の急上昇から、3月は落ち着きを取り戻した

総務省が3月29日に発表した3月の東京都区部のコア消費者物価指数(東京コアCPI、除く生鮮)は前年同月比2.4%上昇と、市場予想に一致し、2月の2.5%上昇を下回りました(図表1参照)。なお、2月の東京コアCPIは、1月の1.8%上昇に比べ伸びが加速していました。

2月の上昇の背景は政府の価格抑制政策の効果が弱まったためです。政府は23年年初から「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を導入し、その効果は23年2月の請求分から表れ、物価を押し下げていました。しかし24年2月からは電気とガス代価格抑制による物価の押し下げ効果が弱まり、東京都区部コアCPI指数は2月に急上昇しました。

エネルギー価格を見るうえで、補助金の影響などにも注意が必要

「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が導入されたことを受け、東京コアCPIは23年1月の4.3%上昇から、翌月は3.3%上昇へと伸びが鈍化しました。24年2月は反対のことが起きたことになります。

もっとも、政府は「電気・ガス価格激変緩和対策事業」を今年5月に縮小すると報道されています。電気料金やガス代の使用分に対し、4月まで現行の補助を続けるものの、5月の使用分ではこうした補助を半減し、6月使用分から支援をなくす方向と伝えられています。

電気料金やガス代金への補助が縮小・廃止された場合の物価の押し上げ効果について、総務省は全国CPIの場合で5月、6月合計で0.49%と試算しています。CPIへの影響は翌月に表れることから、6月、7月合計で0.5%程度、指数が上振れることを見積もる必要がありそうです。

3月の東京コアCPIは昨年導入された「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の効果が弱まった後の物価動向を確認するうえで注目していました。結果は前年同月比で2.4%上昇と前月の2.5%上昇を下回り、導入効果が弱まった後でも、インフレは全体に鈍化傾向にあることが示されました。なお、このことはエネルギーの影響を受けない東京コアコアCPIが23年夏から鈍化傾向であることからも類推できます。

しかし、東京コアCPIは「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の縮小・停止の影響で6月と7月の合計で0.5%程度押し上げられ、3%に近づくことが想定されます。

物価動向を見るうえでは、ガソリン価格にも注意が必要です。ガソリンなどエネルギー価格の高騰を抑える補助金(燃料油価格激変緩和補助金)について、政府は4月末としている期限を延長し、5月以降も継続する意向と報道されています。

資源エネルギー庁の発表に基づき、現在のガソリンへの補助の状況を確認すると、石油元売りへの補助金を通じてレギュラーガソリンの店頭価格(全国平均)は3月25日時点で1リットル174.4円となっていますが、仮に補助金がなかった場合のガソリン価格は198.1円になると見積もられており、ガソリン価格抑制に一定の役割を果たしていることがうかがえます。

燃料油価格激変緩和補助金が本当に延長されるかを含め詳細は今後を待つ必要があります。ただし、報道などでも指摘されているように、電気代やガス料金への補助はなくす方向である一方、ガソリン(など)への補助金が延長となればその線引きはどこにあるのか疑問は残ります。2つの補助金を同時期に無くすのは影響が大きすぎる、というのはもっともですが、それだけではなぜガソリンなどだけを延長するのかを説明することにはならないと思われます。日銀の政策を占ううえでインフレ動向は極めて重要であるがゆえに、筆者は価格動向をゆがめる要因は少ない方が物価動向の判断はしやすいと考えます。

今後のインフレ動向を占ううえでサービス価格の行方に注目すべき

ここまでエネルギーを例に物価データを見るうえでの注意点を述べてきましたが、昨年夏ごろからエネルギー価格については概ね鈍化傾向です。このまま鈍化が続くと仮定して東京コアCPIの鈍化傾向を単純に引き延ばせば、2%を下回るようにも見受けられます。

一方で、物価目標を安定的に維持するにはサービス価格の適度な上昇が不可欠です(図表2参照)。サービスが指数(東京CPI)に占める構成割合は約57%と比率も高いうえ、サービス価格は上昇基調です。サービス価格は賃金上昇が反映されるため、最近の賃上げムードがサービス価格を上昇させ、物価目標の達成に寄与する可能性も考えられます。

なお、3月の東京都区部CPIにおいて、サービス価格は前年同月比2.0%上昇と、前月の2.1%上昇を小幅ながら下回っています。通信・教養娯楽サービスなどが堅調な一方で、宿泊サービスなどは鈍化しました。ホテルなどで人手不足から宿泊料を引き上げることが報道されていましたが、足元では上昇に一服感があるのかもしれません。

サービス価格の動向は、2%の「物価安定の目標」を持続的に達成するためのキーポイントであると見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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