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米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係
梅澤 利文
2024/04/23

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概要

IMFは24年の米国の経済成長率見通しを上方修正しましたが、その背景の1つに労働人口増加(移民流入)を挙げました。米議会予算局は、移民増加により米GDP成長率が今後10年にわたり年平均0.2%押し上げられると予測しています。米国の人口増加率が長期的に低下する見込みの中、一定の移民流入による人口増加と経済成長は想定されますが、不法移民に対する視線は一層厳しくなりそうです。




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米国の経済成長が底堅い背景の1つは移民の流入

国際通貨基金(IMF)は24年4月16日に公表した世界経済見通しで米国の24年の成長率を2.7%と1月時点の予測(2.1%)から0.6%引き上げました。上方修正の背景1つに、IMFは労働人口の増加(移民の流入)を挙げています。

米議会予算局(CBO)は24年1月に米国の2054年までの人口動態予測を発表しました。米国の人口増加率は長期的に低下傾向となるものの、22年から24年にかけて急上昇する様子が示されています(図表1参照)。CBOは2月に発表した長期予算見通しの中で、米GDP(国内総生産)成長率は移民の増加により今後10年にわたり年平均で0.2%押し上げられると指摘しています。

米国の人口動態から、今後も一定の移民を受け入れることが想定される

米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げにもかかわらず、米経済が想定以上に堅調な背景として、コロナ禍に積みあがった過剰貯蓄や財政支出拡大などいくつかの理由が市場で指摘されてきました。人口の増加は消費の増加などを通じて経済成長率を押し上げることが想定されます。CBOのデータを見ると、米国経済の堅調さの理由のリストに移民流入による人口増加が追加されそうです。

図表1で、「移民純流入」はある年に流入した移民から流出した移民をネット(純)で示したものです。「出生-死亡」はある年の出生者数から死亡者数の差異です。図表では「移民純流入」と「出生-死亡」がある年の人口増加率をどの程度説明するのかを寄与度で示しています。24年は「出生-死亡」が約0.2%、「移民純流入」が約1.0%と各々増え、人口増加率は約1.2%となりました。

図表1に基づき米国の人口動態の特色を振り返ると、米国の人口増加率は長期的に低下傾向です。特に2040年前後に、「出生-死亡」がマイナスに転じることが予測されています。死亡者数が出生者数を上回る状況に転じるという想定です。

20年頃にも「出生-死亡」が急速にゼロに近づきました。その後回復しましたが、急落の背景は不幸にしてコロナにより亡くなられた方が増加したためです(図表2参照)。

CBOの死亡率予測を見ると、24年から54年まで死亡率は低下傾向です。この期間、米国の平均寿命は78.7歳から82.2歳に伸びることも予測されています。米国も高齢化社会が進行する中で、相対的に若年層割合が低下することから、一定の移民は受け入れ続けることが想定されます。

移民増加の背景には不法移民の流入増がみられる

米国の移民動向を占うため、コロナ禍前後の移民流入について振り返ります。CBOの集計では移民を3つのカテゴリーに分けています。①「移民」は法的に許可され、永住権を持つ移民です。なお、難民のように申請・許可すれば永住権が得られる方々も、このカテゴリーに含めています。②「(短期的)移民」は特定の専門職などの期限付きの雇用でH1-Bビザなどが該当します。また学生もこのカテゴリーに含まれます。③の「その他移民」のカテゴリーは①や②に含まれない移民です。米国に不法に入国したあと、国外追放を逃れて、米国内に滞在し移民裁判所による亡命審理を待つ人(不法移民)が典型例です。トランプ政権下では不法移民を敵対視したため、図表3にあるように、③のカテゴリーの移民は当時激減しました。しかし、バイデン政権下では人道主義と、コロナ禍後の人手不足もあり③が急増しました。CBOの試算ではその他移民の数は21年から24年の間に合計で約730万人に上ると試算しています。

米国では(合法的な)「移民」に対して肯定的な意見が根強く残ります。しかしながら、不法移民に対する目は特に共和党で厳しいものがあります。また、民主党であっても寛容すぎる政策には見直しの動きもあるようです。CBOの予測を見ても、「その他移民」は将来的に急速に低下することが見込まれています。

残念ながら、3つのカテゴリーの各移民がどのように経済成長に寄与しているかは不明です。ただし、①や②の移民の数に大きな変化が見られない中で、移民により経済成長率が押し上げられたとのCBOの試算があることを踏まえれば、③の移民の経済の押し上げが少なからずあったものと思われます。

移民は政治的に関心の高い問題で、米大統領選挙の重要な争点です。移民に対しては肯定的でも不法移民に対して視線が厳しいのは党派を問わないようです。米国経済は想定以上の強さを見せていますが、不法移民流入を前提とした経済成長見通しについては慎重さが求められそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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