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4月の中国主要経済指標と今後の注目点
梅澤 利文
2024/05/20

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概要

中国国家統計局が発表した4月の主要経済指標において、工業生産は前年同月比6.7%増と市場予想を上回りましたが、小売売上高と固定資産投資は市場予想を下回りました。固定資産投資では不動産投資が悪化しました。中国の不動産問題は消費者マインドを冷え込ませるなど、不動産市場を越えた悪影響も懸念される中、中国当局は不動産問題に対し、本格的な対策を検討している模様です。




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4月の中国主要経済統計:工業生産は堅調ながら、消費の回復は鈍い

中国国家統計局が5月17日に発表した4月の工業生産は前年同月比で6.7%増となり、市場予想の5.5%増、前月の4.5%増を上回りました(図表1参照)。主な生産項目を見ると、新エネルギー車が39.2%増と、前月の33.5%増からさらに伸びが加速しました。

百貨店やスーパーの売り上げ、インターネット販売を合計した小売売上高は前年同月比で2.3%増と、市場予想の3.7%増、3月の3.1%増を下回りました。

4月(1~4月)の固定資産投資は(年初来)前年同期比で4.2%増と、市場予想の4.6%増、前月の4.5%増を下回りました。

工業生産は輸出が押し上げ、小売売上高はセンチメント悪化が下押し要因

中国の生産、消費、投資の各動向を示す経済指標である工業生産、小売売上高、固定資産投資の4月分を見ると、生産は堅調ながら、消費や投資において伸びが鈍りました。

工業生産は新エネルギー車などを含む自動車や半導体を含むAI機器、携帯端末など輸出関連項目の伸びが全体を押し上げました(図表2参照)。

中国汽車工業協会が11日に発表した4月の新車販売台数(含む輸出)は前年同月比9.3%増と好調でした。内訳をみると国内販売は4.1%増と伸び悩んでいることから輸出の堅調さがうかがえます。新エネルギー車ではプラグインハイブリッド車(PHV)の輸出が好調で、全体を押し上げました。

なお、電気自動車(EV)は4月が2.4%減と伸び悩みが見られました。

生成AIやスマートフォンなどの性能を大きく左右する半導体は米国の輸出規制による影響が懸念されます。これに対し中国当局は半導体の国産化で対抗する方針で、中国企業同士が手を組むことなどにより、業績を伸ばす構えです。

工業生産では、セメントや鉄鋼製品など建設関連の生産は減少が続いています。中国の不動産問題が生産活動の低下にも波及しています。

次に小売売上高を振り返ると、4月は2.3%増にとどまりました。中国国家統計局が会見で指摘したように、4月の小売売上高は比較対象となる前年の水準がゼロコロナ政策の終了で高かった(23年4月は前年同月比18.4%増)ことを割り引いて考えるべきと思われます。外食などを含む飲食店収入は4.4%増と底堅い動きも見られました。

自動車の小売販売は5.6%減と前月を下回りました。工業生産で見たように自動車の国内生産が伸び悩む中、自動車メーカーは値下げを発表しています。消費者センチメントの回復が鈍いと自動車メーカーは判断したためと思われます。

固定資産投資は伸びが鈍り、不動産投資は前月から悪化した

4月(1~4月)の固定資産投資は前年同期比で4.2%増と、3月を下回りました。固定資産投資を構成する製造業、インフラ投資、不動産投資の各指数の変化率はいずれも3月を下回りました(図表3参照)。

製造業は4月が前年同期比9.7%上昇と、前月の9.9%上昇を下回ったものの依然高水準です。当局は国内生産を強化する方針を当面維持するものと見られます。インフラ投資は、投資の主体となる地方政府の債務問題(隠れ債務)に対する取り締まりなどが減速の背景と見られます。インフラ投資と製造業の投資はこれまでの上昇ペースの調整の範囲での減速と見ています。

一方、不動産投資は4月が前年同期比9.8%減と、前月の9.5%減から一段と悪化し、中国の不動産問題の根深さが示されました。別の不動産関連指標として、5月17日には4月の主要70都市の新築住宅価格動向が発表されました。70都市のうち、前月比で価格が下落したのは全体の91%にあたる64都市で、3月の57都市から下落した都市数が7都市増えました。下落した都市数が64というのは15年2月以来の多さで、中国の不動産問題の深刻さがうかがえます。

不動産問題は不動産という固有の市場にとどまらず、中国の消費者マインド全体を冷え込ませている可能性があります。中国の1-3月期のGDP(国内総生産)は前年同期比で5.3%増と、成長率の伸びは確保できていますが、成長率の押し上げ要因は投資と生産に依存しています。一方、消費の伸びは鈍く、成長の質に問題が見られます。中国の消費者マインドを押し下げているのは不動産問題以外にも米中対立などがあげられますが、国内で対応できるこの問題への取り組みが求められます。

この点で注目したいのは、中国共産党は4月末の中央政治局会議で「不動産在庫の消化と供給量の合理化のための政策を検討する」ことを発表したことです。これは未完成のまま放置されている住宅の完成を中国当局が支援する方針と見られます。当局が放置してきた問題ですが、中国の不動産問題を抜本的に改善する可能性もあるだけに、筆者は今後の展開に注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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