Article Title
円安進行、160円台となって次の一手
梅澤 利文
2024/06/28

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

円安圧力が続いています。デジタル赤字(デジタル関連の国際収支の赤字)やエネルギー輸入など根強い円安要因に加え、当局の政策のスキを突くような投機的動きも円安要因として想定されます。投機的な動きには為替介入で対応する一方、円安が物価に影響を与えるならば、金融政策も含めた対応が求められます。しかし、物価変動に影響を与える要因は様々で、慎重な判断が求められます。




Article Body Text

円安進行、前回の為替介入の防衛ラインを突破

円安が進行しています。6月26日夜に一時1ドル=160円台後半と37年半ぶりの円安・ドル高水準をつけました。円相場は28日には一時161円台(東京時間)にまで円安が進行しました(図表1参照)。4月29日に政府・日銀による為替介入のきっかけになった水準(160円24銭)近辺を介入の防衛ラインとして市場は意識していましたが、あっさり突破しました。

米財務省が6月20日に外国為替報告書で日本を「監視リスト」に加えたことから為替介入が手控えられるのではとの観測や、政府による電気代補助などの物価対策は財政拡大要因であることから円安を助長するとの思惑などが円安の背景となった可能性が市場でささやかれています。

6月の東京都区部のコアCPIは前年同月比で2%台を回復した

円安が進行する中、為替介入だけでなく、日銀の対応にも注目が集まっています。ただし、日銀は為替が基調的インフレに影響を与える場合に限って対応する姿勢です。こうした中、日本の経済指標が改めて注目されます。

総務省が28日に発表した6月の東京都区部の消費者物価指数(CPI)は変動の大きい生鮮食品を除いたコアCPIが前年同月比は2.1%上昇と、市場予想の2.0%上昇、前月の1.9%上昇を上回りました(図表2参照)。4月、5月と2ヵ月連続で伸び率は物価目標の2%を下回っていましたが、6月は再び2%を上回りました。生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIは6月が1.8%上昇と、市場予想、前月を上回りました。

総合指数(CPI)は前年同月比2.3%上昇と、市場予想に一致し、前月の2.2%上昇を上回りました。CPIの変動へ寄与した項目を寄与度差でみると、エネルギーは0.09%ポイントの押し上げ要因となっています。エネルギー項目の中で動きが目立ったのは都市ガス代と、電気代です。前月比で6月は各々3.4%、4.7%上昇しました。政府は6月請求分から電気代、ガス代を抑制する補助金を半減したことが電気代とガス代上昇の背景です。東京都区部CPIは全国版のCPIに先行することから、来月17日に発表が予定されている6月の全国CPIでも同様の物価の押し上げが想定されます。

なお、賃金動向を反映しやすいサービス価格は前年同月比0.9%上昇と前月の0.7%上昇からプラス幅が拡大しました。春闘で確認された賃上げの動きが反映され始め、サービス価格への価格転嫁も想定されるだけに注目が必要です。

次に生産面のデータとして、5月の鉱工業生産指数が経済産業省から28日に発表されました。5月は前月比で2.8%増と、市場予想の2.0%増、前月の0.9%減を上回りました(図表3参照)。

鉱工業生産が6月に回復したのは、自動車工業が前月比で18.1%増となったことが寄与しました。一部自動車メーカーの認証不正問題で停止していた生産がようやく回復したからです。認証不正問題の影響が深刻であった1-3月期の日本のGDP(国内総生産)は前期比1.8%減とマイナス成長でしたが今回の鉱工業生産を見る限り、生産活動の停滞に変化の兆しが見られます。

ただし、安心するのは早そうです。別のメーカーによる新たな認証不正問題が発覚したからです。経済産業省は先行きを示唆する基調判断を、「生産は一進一退ながら弱含み」に据え置いたことからも、5月の急回復は短期的にとどまりそうです。

日銀の円安警戒姿勢と、足元の円安圧力で7月利上げ観測は高まったが

日銀は7月1日発表予定の全国企業短期経済観測調査(短観)などの重要指標は残りますが、これまで発表された指標は利上げの決め手とはなりにくいとみられます。

6月の東京都区部コアCPIは2%を回復し、7月も電気・ガス代補助金の削減が物価を押し上げると見られます。しかし、政府は8月から10月に電気・ガス代を追加補助するとしています。これは9月から11月のCPIの押し下げ要因となることが見込まれます。また、22年1月に始めたガソリン補助金についても年内は継続するとしています。資源エネルギー庁のデータを見ると、足元、ガソリンの店頭価格は1リットル175円前後ですが、補助金がなければ200円を超えることが示唆されています。補助金による物価上昇の緩和という役割がある一方、金融政策の判断に影響しない配慮が必要かもしれません。

日銀の6月の金融政策決定会合で、国債買い入れ減額の詳細の発表が7月に先送りされました。6月会合前は、7月の追加利上げ予想が過半となったものの、7月に利上げと国債買い入れ減額を同時に実施するとは考えにくいとして、7月の利上げ予想は後退しました。しかし、最近の日銀の円安警戒感と、円安圧力を受け再び7月利上げの見方が増えてきました。筆者も可能性はかなり高まったと見ていますが、決め手には欠けると見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応