Article Title
6月の米CPI、瞬間風速を示す前月比が0.1%下落
梅澤 利文
2024/07/12

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米労働省が発表した6月の消費者物価指数(CPI)は前月比で0.1%下落するなど、物価の減速傾向が明確となりました。ガソリン価格の低下によるエネルギー価格下落と、サービス価格が主な押し下げ要因です。サービス価格のうち高水準で推移してきた住居費に待望の鈍化の兆しが見られました。今回の物価鈍化の持続性について確認は必要ですが、利下げ開始を支持する証拠が増えつつあるようです。




Article Body Text

6月の米CPIは前月比が0.1%下落するなど物価減速が明確に示唆された

米労働省が7月11日に発表した6月の消費者物価指数(CPI)の変化率は、物価の瞬間風速を示す前月比が0.1%下落と、市場予想の0.1%上昇、5月の横ばい(0.0%)を下回りました(図表1参照)。前年同月比では3.0%上昇と、市場予想の3.1%上昇、5月の3.3%上昇を下回りました。

食品とエネルギーを除くコアCPIは前月比0.1%上昇と、市場予想の0.2%上昇、5月の0.2%上昇を下回りました。前年同月比も3.3%上昇と、市場予想の3.4%上昇、5月の3.4%上昇を下回りました。物価の減速傾向が明確となった6月のCPIを受け、為替市場では円が対ドルで一時、1ドル=157円台半ばまで円高・ドル安が進行しました。

6月のサービス価格は住居費、コアサービスともに下押し要因

6月の米CPIで前月比は物価の下落が示されました。これをエネルギー、食料品、財、及びサービスの各項目に分類し、項目別に寄与度で見ると、6月の主な下押し要因はエネルギーのマイナス寄与と、サービスの寄与度の低下です(図表2参照)。各項目の注目点、今後のポイントは次の通りです。

エネルギーは前月比2.0%下落でした。5月も同じく2.0%下落でした。内訳をみると下落の大半はガソリン価格の下落によるもので、電気とガスの料金を反映するエネルギーサービスは均してみると落ち着いていました。図表3でガソリン価格(全米平均のレギュラーガソリン価格)を見ると、5月、6月と前月比で下落しています。CPIのガソリン項目も同様の動きでした。ただし、ガソリン価格に先行する傾向がある原油価格は6月月初から上昇に転じており、今後のガソリン価格への影響に注目しています(図表3参照)。

6月の米CPIで注目すべきはサービス価格の鈍化でしょう。サービス価格(除くエネルギーサービス)は前期比が0.1%上昇と、減速が見られた5月の0.2%上昇をさらに下回りました(図表4参照)。

サービス価格の構成割合の6割程度は主に賃料と帰属家賃(持ち家を家賃換算して算出)からなる住居費です。住居費は過去3年の平均の伸び(前月比)が約0.5%と、高水準で推移しサービス価格が減速しにくい要因となっていましたが6月は0.2%上昇と5月の0.4%上昇から6月は急減速しました。住居費の減速を市場は待ち望んでいたと思われます。なお住居費にはホテルなど宿泊費の項目も含まれますが、6月大幅に下落しました。

もっとも、まだ単月の話であり、来月以降も住居費が鈍化するのかに注意は必要です。

サービスから住居費を除いたコアサービス(スーパーコアと呼ばれることもある)は、6月が前月比0.1%下落と、小幅ながらマイナスとなった5月をさらに下回りました。コアサービスを押し下げた項目に目をやると航空運賃を含む輸送サービスや、娯楽サービスなどが挙げられます。また通信サービスの構成項目の一部も前月比で価格が下落しました。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長はコアサービス価格(実際には個人消費支出(PCE)価格指数に基づいて算出)の動向に注意を払っていることを会見などで述べています。6月のコアサービスの下落は利下げ開始の一つの支援材料になると思われます。

FRB高官のこれまでの発言では、6月のCPIは物価鈍化の証拠として評価

残りの項目である食品と財はCPIへの寄与度は限定的でした。

財の寄与度は小幅ながらマイナスでした。主な項目を見ると、自動車は新車、中古車それぞれ前月比で0.4%減、1.5%減と共に下落しました。コロナ禍における需要の高まりで中古車価格はインフレの代名詞となったこともありましたが、中古車価格は概ね21年後半頃をピークに下落傾向となっています。米小売売上高や、GDP(国内総生産)の個人消費が軟調なことからも財への需要に弱さは見られます。したがって財価格は当面軟調な推移も想定されます。しかし、一部の財商品には底打ちも想定されています。今後、財価格減速のペースは緩むときがある可能性もあり、その価格動向に注目しています。

6月の米CPI発表後に複数のFRB高官がコメントをしていますが、全般にインフレ鈍化の証拠として評価しています。ただ、来週には最近やや利下げに慎重となったウォラー理事らの講演が予定されており、注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応