Article Title
4-6月期の中国GDP成長率、回復の足取りは重い
梅澤 利文
2024/07/16

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国国家統計局が発表した4-6月期のGDPは前年同期比で4.7%増と市場予想を下回り、景況感は悪化しているとみられます。輸出と工業生産が成長を支える一方で、小売売上高の伸びは鈍く、消費者の慎重な姿勢がネックとなっています。また、不動産市場の問題も依然として深刻です。中国当局は不動産問題の解決策を示しましたが、効果は不十分で、追加対策に注目が集まっています。




Article Body Text

4-6月期の中国GDP成長率は個人消費がさえず低調な結果に

中国国家統計局が7月15日に発表した4-6月期のGDP(国内総生産)は、物価の変動を調整した実質で前年同期比4.7%増と、市場予想の5.1%増、前期の5.3%増を下回りました(図表1参照)。短期的な動向を示す前期比では0.7%増と、前期の1.6%増を大幅に下回り、足元で景況感が悪化していることを伺わせます。

4-6月期の中国GDPを押し上げた要因は、輸出や工業生産の増加が挙げられます。一方で、押し下げ要因として、小売売上高が低い伸びにとどまったことが挙げられます。中国当局が導入した自動車などの買い替え助成・奨励プログラムの効果が小売全体を押し上げる力に乏しいなど消費意欲は力強さに欠けるようです。

中国のGDPを生産活動や輸出が下支えはしたが、押し上げには不十分

中国のGDPの押し上げ要因である輸出(ドル建て)は5月が前年同月比7.6%増、6月が8.6%増と堅調に推移しました。一方、輸入は5月が1.8%増、6月が2.3%減でした。貿易収支にはプラス用要因であったものの、輸入データからは中国の国内需要の弱さが示唆される内容でした。

工業生産は6月が前年同月比5.3%増と、前月の5.6%増から小幅鈍化したものの、過去3年の平均(約4.3%)は超えており比較的堅調な伸びを維持しました(図表2参照)。工業生産を押し上げたのは新エネルギー車(前年同月比で37.0%増)、産業AI機器(12.4%増)、携帯端末(7.6%増)などです。電気自動車(EV)など新エネルギー車は支援策で高い伸びを維持しましたが、自動車全体の伸びは1.8%増にとどまりました。中国当局による新エネルギー車の買い替えに対する補助金支給が生産を押し上げたためとみられます。

一方で、建設需要が軟調なことからセメントの生産は6月が前年同月比で10.7%減と大幅なマイナスとなったうえ、石油製品なども軟調でした。工業生産に幅広い回復はみられませんでした。

中国経済の抱える問題は、不動産だけではなく、消費も力強さに欠ける

4-6月の小売売上高の前年同月比の伸びは5月を除いて市場予想を下回り、さえない展開でした。また、固定資産投資は6月が(年初来)前年同期比で3.9%増と、前月の4.0%増を下回るなど伸び悩みました(図表3参照)。

中国の4-6月期のGDP成長率が伸び悩んだ背景は個人消費の伸び悩みと低迷する不動産投資とみられます。個人消費を反映する小売売上高を項目別にみると、化粧品や宝石などが軟調でした。また、自動車は前年同月比で6.2%減と大幅なマイナスでした。新エネルギー車は買い替え促進で好調でも、自動車全体の底上げには不十分なようです。宝石や自動車など高額商品が買い控えられるのは消費者の慎重姿勢の表れともみられます。6月は電気用品が前年同月比で7.6%減をはじめ、スポーツ・娯楽用品、衣類などもマイナスとなりました。ただし、個別項目の動向は単月のぶれが大きいため、様子を見守る必要はありますが、消費の落ち込みを感じさせます。

中国経済のセンチメントを測るうえで重要な指標として資金需要、特に社会融資規模残高の動きが注目されます。6月は前年同月比で8.1%増と、前月の8.4%増を下回りました(図表4参照)。筆者は、中国の消費活動が軟調なのは消費者センチメントの悪化が背景と見ています。

センチメントの悪化は若年層の失業率上昇、米中対立悪化などが挙げられますが、引き続き不動産市場問題は深刻です。中国当局は4月から5月に一連の不動産市場対策を発表しました。住宅ローンの頭金比率の下限の引き下げや、住宅ローン金利の下限の撤廃に加え、住宅購入者が購入代金を前払いしたにもかかわらず未完成で、引き渡されていない住宅を完成させて引き渡すなどが示されましたが、特に未完成住宅問題の全体像は不透明感が残るようです。6月の固定資産投資で構成指数の一つである不動産投資は前年同期比で10.1%減と、前月の10.1%減と変わらずでした。中国当局のこれまでの不動産対策の効果は明確となっていないようです。

中国では第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)が15日に開幕(18日閉幕予定)しました。3中全会は中長期の視点で経済改革を議論することが本来の目的で、不動産問題の具体策などへの期待は低いですが、当局の意向には注意をする必要があると思われます。

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応