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7月FOMC直前、発言から浮かび上がる当局の姿勢
梅澤 利文
2024/07/18

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概要

米連邦準備制度理事会(FRB)は7月30日-31日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催する予定です。FOMC参加者の最近の発言には、足元の経済指標を反映してハト派寄りのものが増えています。労働市場の過熱感は後退し、今後は冷え込むことさえ懸念されています。ただし、物価動向には不確実性もあることなどから、FOMC参加者は利下げ開始時期についてぎりぎりまで見極める姿勢のようです。




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7月FOMCを前に、FOMC参加者からハト派寄りの発言が増えつつある

米連邦準備制度理事会(FRB)は7月30日-31日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催する予定です。それに伴い、20日からはFOMC参加者が金融政策に関する発言を控える「ブラックアウト期間」となります。

ブラックアウト期間を前に、FOMC参加者の最近の主な発言を振り返ると、ボウマン理事のようにタカ派(金融引き締めを選好)姿勢を維持する発言もありますが、ややハト派(金融緩和を選好)寄りの発言が増えている印象です(図表1参照)。

FOMC参加者にハト派発言が増えた背景は米労働市場の過熱感後退

図表1にあるように、6月のFOMC以降の発言にハト派寄りのものが増えています。それを示唆する代表的なフレーズは「リスクはインフレだけではない」で、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁や、パウエル議長が議会証言(7月9日)などで使用しています。ただし、利下げ開始には依然慎重であることを示唆する、「まだデータを確認したい」という表現も幅広い参加者に使われています。7月のFOMCでの利下げ開始は考えにくいようです。

市場から発言内容への注目度が高いウォラー理事のコメントをベースに、最近のFOMC参加者の金融政策への姿勢を整理します。ウォラー理事は今年5月の講演やインタビューで24年年末の利下げは検討可能と述べ、年内の利下げはあっても1回程度という見解を述べました。当時、物価は再加速の兆しを示し、労働市場も堅調であったことからタカ派的な姿勢でした。一方、パウエル議長など他のハト派寄りのFOMC参加者も、「政策金利を従来想定していたより長く据え置く必要がある」と述べるなどハト派姿勢の見直しを迫られました。

タカ派のウォラー理事がハト派寄りになった背景を17日の講演から探ると、6月の米ISM非製造業景況指数が景気減速の兆しを見せたことに加え、労働市場の悪化を最も懸念しているようです。具体的には、失業率が徐々に水準を切り上げていることを指摘しています(図表2参照)。6月の失業率は4.1%と、過去の平均と比べ高い(労働市場の悪化)とは言えませんが、21年後半以来の水準です。また、6月のFOMCで公表された経済見通しではFOMC参加者が想定する24年末の失業率(中央値)は4.0%で、既にその想定を上回っています。

もっとも、労働市場への参入度合いを示す労働参加率が上昇(改善)する中での失業率の上昇は必ずしも悪い話ではなく、コロナ禍で失われた労働力が移民の増加などを受けて徐々に回復している面もあります。コロナ禍の回復期に、米国の労働市場では労働需要が労働供給を上回るという珍しい状況にありました。パウエル議長も過去の講演でこの特異性を指摘しましたが、労働市場の需給バランスは改善しつつあります。労働需給を示す、失業者に対する求人件数の割合は、コロナ禍時には2件程度にまで上昇していましたが、足元では同指標は1.2件程度で、需給のバランスは改善したとウォラー理事は指摘しています。

問題なのは、労働市場の過熱感後退が行き過ぎて、悪化に転じることです。ウォラー理事は求人件数などから算出される欠員率と失業率の関係から判断して、仮に求人件数が低下を続け、欠員率がコロナ禍前の水準にまで戻ったとすると、失業率は4.5%程度にまで上昇すると試算しています。6月のFOMCで示された長期的な失業率見通しの4.2%を上回る水準で、労働市場が悪化した水準と思われます。「リスクはインフレだけではない」と指摘したデーリー総裁も同様の議論で失業率の上昇を警告しています。景気引き締め的な領域にあるとみられる政策金利を長期的に据え置くことへのリスクについては意識する必要がありそうです。

インフレ鈍化は見込まれるが、他の選択肢を考慮することも必要

肝心のインフレについて、ウォラー理事は講演の中で、米消費者物価指数(CPI)が昨年の鈍化傾向から、24年最初の数ヵ月は再加速の動きを見せたものの、足元で再びインフレが鈍化していると、これまでの動きを総括しました。そのうえで、今後については次の3つのシナリオを示しました。

①明確にインフレ指標が鈍化を続ける、②インフレ再加速と鈍化が現れ物価の軌道は「でこぼこ道」となる、③インフレ再加速、の3パターンです。

①は楽観シナリオで可能性は高くないが、起きたなら、すぐにでも利下げ可能となるシナリオです。

②はより現実的で、おそらく、過去半年のインフレ動向のように、インフレ再加速と鈍化による「でこぼこ道」のイメージです。ただ、でこぼこ道を均してみると物価は2%の目標に向け緩やかに鈍化を続けるというシナリオです。ただし②の場合、利下げのタイミングは不確実性が高いと述べています。

③は24年後半のインフレ再加速シナリオです。ウォラー理事も見たくはないが、外すわけにはいかないシナリオとしています。もっとも最近の物価指標から、③の可能性は低いとも指摘しています。

ウォラー理事は、労働市場の変化などを十分に認識しながらも、近い将来の利下げに警戒姿勢も持ち合わせています。したがって、7月利下げは論外で、9月利下げにも完全には軸足を置いてはいないようです。他のハト派のFOMC参加者も慎重姿勢を残しています。利下げ開始は近いとみられますが、当局には何かが引っかかるようです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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