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中国に期待される金融緩和とその注目点
梅澤 利文
2024/08/20

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概要

中国の7月の主要経済指標は景気回復に鈍さが示されました。中国人民銀行による金融緩和政策が期待されますが、資本流出への懸念を見極めながらの政策運営になることが想定されます。一方、中国当局の最近のアナウンスメントから、中国は量を主体とした従来の政策運営から、今後、金利主体の政策運営へシフトさせる意向です。当面は利下げだけでなく、制度面での変化にも注意が必要です。




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中国人民銀は市場予想通り、プライムレートを今月は据え置いた

中国人民銀行(中央銀行、人民銀)は8月20日に最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)について、期間1年が年3.35%、同5年超を年3.85%に据え置くと発表しました(図表1参照)。人民銀は毎月LPRを公表しますが、7月は期間が異なる2つのLPRを同時に引き下げました(23年6月以来)。今回人民銀は7月の利下げの効果を見守る姿勢が想定され、市場では幅広く据え置きが見込まれていました。

なお、7月の利下げを振り返ると、人民銀は7月22日に、7日物リバースレポ金利を、1.8%から1.7%に引き下げました。通常の利下げでは中期貸出制度(MLF)が先行して引き下げられますが、MLFは3日遅れの25日に引き下げられました。

中国と米国の実質金利は拮抗しており、中国の金融緩和の足かせに

8月中旬に発表された中国の7月の主要経済指標(小売売上高、工業生産、固定資産投資)は引き続きさえない内容で、景気回復の足取りの重さが示されました。金融政策による景気テコ入れ策の必要性がうかがえます。

ただし、中国は資本流出を恐れ金融緩和に慎重という面もあります。この点を図表2で確認します。人民銀の潘功勝総裁は6月の講演で中国の実質金利の目安として2年物中国国債利回りと変動の大きい項目を除いたコア消費者物価指数(CPI)の差を参照していました。これに倣い図表2では赤い実線が中国の実質金利です。同じ考え方で米国の実質金利を算出して、その推移を水色の実線で示しました。米国の過去の利上げとインフレ率の低下により、米中の実質金利は足元で拮抗しています。中国の実質金利の高さが消えつつある中で、中国当局が資本流出を恐れるのは当然の懸念と思われます。

中国の資本流出を資金の流出額を目安に確認します。国家外為管理局(SAFE)によると、中国の銀行が対顧客に実施した外貨売却額は、7月が457億ドルと前月の397億ドルを上回る売却額となりました(図表3参照)。米中の実質金利差が縮小するに従い資本流出が悪化(拡大)したことが示されています。

人民銀は中国の景気動向を踏まえた金融緩和と、資本流出のバランスをとる政策運営が想定されます。幸い(?)、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月に利下げを開始する公算が高まっています。人民銀は7月に利下げを行いましたが、「次の利下げ」は米国の動きを踏まえて、金融緩和を調整する流れになると筆者はみています。

人民銀の金融緩和は制度の変更などにも注意が必要となる可能性

24年後半、中国の金融政緩和は経済政策の主要なテーマの1つになるとみられますが、最近の人民銀行の講演などから、金融政策の枠組みが変わりつつあることが示唆されました。

伝統的に中国の金融政策は量を重視した政策運営が行われています。そのため、市場は、マネーサプライや社会全体の資金調達の規模を示す社会融資規模の残高に注目してきました(図表4参照)。しかし、人民銀の潘総裁は6月の講演で数量目標から、今後は徐々に金利を主体とした政策運営にシフトする考えを示しています。もっとも、中国では貸出しなど「量」の政策に比べ「金利」は十分に機能しているとはいえず、量からのシフトが一朝一夕に進むことはないとみています。それでも変化の方向には注意を払う必要がありそうです。

中国の政策金利は制度が複雑です。当レポートの最初に紹介したLPRは事実上の政策金利などと呼ばれますが、本来の政策金利は、短期金利が7日物リバースレポ金利で、中長期金利はMLF金利がその役割を果たすとされています。7月に開催された第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)では金利体系を整理することが示唆されました。そのイメージは、多くの国で行われているように、短期金利を政策金利の主体とし、他の指標金利に波及させるというものです。LPRは現在でも国債などと並び指標金利の位置づけですが、これを明確化する動きが想定されています。なお、LPRは人民銀が示すレートと、実際に銀行が顧客に提示するレートに大きな開き(銀行レートが高い)がある等の問題点を人民銀は指摘しています。このような問題への対応と金融緩和を並行して進める可能性が考えられます。金利の上がった、下がった以外にもその背景に注意が必要なようです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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