Article Title
8月の中国貿易統計の数字を読み解く
梅澤 利文
2024/09/11

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国税関総署が発表した8月の貿易統計によると、輸出は前年同月比8.7%増で5ヵ月連続のプラスとなりましたが、輸入は0.5%増にとどまりました。輸入が軟調であったことは中国の内需の低迷を反したとみられます。一方で輸出は堅調でした。幅広い国や地域で中国製品への需要が高かったことがうかがえます。ただし、欧米の景況感指数に景気減速の兆しもあり、輸出の今後の動向には注意が必要です。




Article Body Text

8月の中国の貿易統計で、輸出は伸び、輸入は伸び悩んだ

中国税関総署が9月10日に発表した8月の貿易統計によると、輸出は前年同月比8.7%増と、5ヵ月連続のプラスを確保し、市場予想の6.6%増、前月の7.0%増を上回りました(図表1参照)。一方で、輸入は0.5%増と、市場予想の2.5%増、前月の7.2%増を下回りました。

輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は910億ドルの黒字で、中国の貿易黒字は概ね拡大傾向です。なお、7月15日に発表された中国の4-6月期GDP(国内総生産)は前年同期比で4.7%増でした。貿易黒字(純輸出)は押し上げ要因でしたが、仮に貿易黒字がゼロだった場合、4-6月期のGDP成長率は4.1%増にとどまったとみられます。

8月の輸入は、国内需要の低迷を反映して軟調となった

中国の8月の貿易収支の黒字だけを見れば単に成長の押し上げ要因ですが、輸入の伸び悩みは中国の内需の低迷を反映したとみられます。一方、比較的堅調な輸出も中身を見ると、今後の動向に不安の目が見られます。

原油をはじめ中国は多くの原材料を輸入しています(図表2参照)。8月の輸入が前年同月比0.5%にとどまった背景として商品価格の下落の影響も考えられます。しかし数量ベースでみても8月の輸入は低調でした。経済のバロメータと言われる銅の輸入を数量ベースで見ると、7月の2.5%減から8月は12.3%減に低下しました。原油輸入は7月の3.1%減から8月は7.0%減に低下しました。

米エネルギー情報局(EIA)によると、中国は米国の次に石油を消費する国です。米国は石油生産国でもありますが、中国の石油生産は相対的に少なく、その多くを輸入に依存しています。原油価格下落の背景には中国景気への懸念が大きく影響しているとみられます(図表3参照)。

なお、8月と異なり、中国の7月の輸入は前年同月比で7.2%増と比較的高い伸びでした。これは前年のベースが低かったためとみられ、均してみれば中国の輸入は軟調な推移とみられます。

8月の輸出は堅調な数字だったが、内容には疑問も残る

中国の8月の輸出は比較的堅調でした。

品目別にみると自動車は(シャーシ含む)は7月の約14%増から、8月は約33%増と堅調でした。電気自動車(EV)などが堅調であった模様です。その他では、携帯電話が約17%増と、7月の約2%増から伸びが加速しました。パソコン及び部品も約12%増ながら、7月の伸びを下回りました。半導体集積回路も前月を下回っており、輸出商品の中に頭打ちの兆しも見られます。

次に中国の輸出を国または地域別に見ると、幅広い国や地域への中国からの輸出が拡大したことがうかがえます(図表4参照)。地域別では最大の輸出先であるアジア向けが、インドなどを含め、堅調でした。日本向け輸出も小幅ながらプラスに転じています。欧州(欧州連合(EU))向けも1割超と堅調な伸びでした。

なお、米国向け輸出は、7月に比べ8月は伸びが縮小しました。比較対象となる23年8月の米国向け輸出が急増したことの反動による減速もあり、見た目ほど悪くはないと思われます。

8月は先進国、新興国とも外需が好調で、中国はその恩恵を受けたとみられます。日本を含めアジアの国の8月の景気は比較的堅調であったのかもしれません。ただし、欧米の景況感指数は製造業を中心に悪化しています。中国からの輸出品目には設備投資に必要な機器も含まれています。利下げを見込んだ先行投資の可能性がないわけではありませんが、欧米の景気動向と堅調な外需拡大という方向感の違いに違和感も残ります。

特に欧州は景気先行指数が足元悪化傾向なだけに、欧州向け輸出の回復には疑問も残ります。なお、EUは8月に中国から出荷される電気自動車(EV)に追加関税を賦課する決定方針を発表しています。中国製EVを早めに手当てしようという動きがあったのかもしれません。もっとも、習近平国家主席は5月に欧州を訪問し、欧州との外交交渉を活発化させています。米中関係の陰に隠れがちですが、EV追加関税など、欧州と中国の交渉にも注意をする必要がありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利下げの背景と今後

9月のFOMC、大幅利下げは今後も続くのか

ブラジル中銀が再び利上げに転じるとみられる背景

中国主要経済指標に見る景気対策の難しさ

ECB、利下げの道筋は不確実だが緩和路線は維持

米CPI、注目度は下がったが、忘れてはいけない