Article Title
米CPI、注目度は下がったが、忘れてはいけない
梅澤 利文
2024/09/12

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米労働省が発表した8月のCPIは前年同月比で2.5%上昇し、エネルギーと食品を除くコア指数は3.2%上昇しました。インフレ鈍化の傾向は持続しているとみられます。しかしサービス価格の品目の中には住居費や航空運賃のように上昇したものもありインフレ鈍化のペースダウンに配慮も必要です。FRBは労働市場を注視する姿勢にシフトしましたが、今すぐインフレに対する警戒を解くことはなさそうです。




Article Body Text

8月の米CPIで全般的なインフレ鈍化は確認できるが、コアCPIに注意信号

米労働省が9月11日に発表した8月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.5%上昇と、市場予想の2.5%上昇に一致し、前月の2.9%上昇を下回りました(図表1参照)。物価の瞬間風速を映す前月比で0.2%上昇と、市場予想、前月(共に0.2%上昇)に一致しました。

エネルギーと食品を除くコア指数は前年同月比で3.2%上昇し、市場予想、前月(共に3.2%上昇)に一致しました。前月比での伸びは0.3%上昇と、市場予想、前月(共に0.2%上昇)を上回りました。市場ではコアCPIの前月比が注目され、物価の勢いは市場予想を上回ったとの見方から、大幅利下げ観測の後退で米2年債利回りが上昇しました。

エネルギーや財の価格は主な下押し要因

米連邦準備制度理事会(FRB) がインフレから労働市場に注目点をシフトさせたことは明確です。しかし、8月の米CPIをみると、インフレについても、相応の注意は持ち続けることが必要なようです。

8月の米CPIの前月比の伸びをエネルギー、食品、財、及びサービスの各項目に分類し、項目別に寄与度で見ると、8月の主な下押し要因はエネルギーと財のマイナス寄与でした(図表2参照)。一方で、主な押し上げ要因はサービスのプラス寄与拡大でした。各項目の注目点や今後のポイントは次の通りです。

まず、主な下押し要因となったエネルギーと、財について下落の大きかった品目は、エネルギーではガソリンやガス・サービスなどがあげられます(図表3参照)。ガソリンは前月比で0.6%下落、ガス・サービスは1.9%下落しました。図表にはありませんが、電力なども下落しており、これらの品目がエネルギー価格を押し下げました。エネルギーは原油や天然ガスなどエネルギー資源価格の動向に左右されるため、今後も変動要因となりそうです。

財価格を押し下げた品目では図表3の点線で示した中古車などが挙げられます。他には家具などにも下落が見られました。ただし、中古車は取引の元である中古車市場の価格に足元で下げ止まりもみられます。財に含まれる品目の多くはコロナ禍で価格が高騰したものが多くみられます。コロナ禍が落ち着き、財価格は下落し、CPIの下押し要因となることが多かったですが、今後も同様のペースで財価格が下がり続けることは、考えにくいと思われます。

8月のCPIはサービスの価格上昇が主な押し上げ要因だった

次に、8月の米CPIの主要な押上げ要因であるサービスについてです。

サービスを押し上げた主な品目は輸送部門の航空運賃や、自動車保険などが挙げられます。もっとも寄与度の点で住居費上昇の影響が大きいとみられます(図表4参照)。

住居費は8月に前月比で0.5%上昇し、7月の0.4%上昇を上回りました。住居費を構成する主な品目である賃料と帰属家賃(持ち家にも家賃負担があるとみなして算出)はそれぞれ前月比で0.4%上昇、0.5%上昇しました。米労働省も声明文で住居費の上昇が8月のCPIの主要な押し上げ要因であったと指摘しています。

住居費は、賃料(7.7%、CPIに占める構成割合)と帰属家賃(26.8%)以外に、ホテル代などの宿泊費も含まれます。宿泊費の構成割合は1.5%程度と低いものの、8月は前月比で1.8%上昇しました。

宿泊費など旅行に関連して、航空運賃も8月は前月比で3.9%上昇しました。航空運賃は下落傾向が続いていただけに、底打ち感が見られました。

図表4では住居費と航空運賃について、前月比の変化率の元となる季節調整済みの指数原系列を示しました。航空運賃は季節調整をした後であっても、旅行需要などを反映して上下に変動しています。一方、住居費は住宅市場に陰りがみられるものの、賃料や帰属家賃は概ね上昇傾向です。住居費は6月に前月比0.2%上昇と減速の兆しを見せましたが、今のところ一時的減速にとどまっています。住居費の先行指数である新規賃貸契約などから今後の低下が期待されますが、当面見守る必要はありそうです。

米国のインフレ鈍化傾向は明らかながら、そのペースが緩やかであることと、労働市場が軟化はしても悪化とは言い切れない中では、大幅な利下げでなく、通常(0.25%)の利下げで対応する可能性が高いと筆者はみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利下げの背景と今後

9月のFOMC、大幅利下げは今後も続くのか

ブラジル中銀が再び利上げに転じるとみられる背景

中国主要経済指標に見る景気対策の難しさ

ECB、利下げの道筋は不確実だが緩和路線は維持

8月の中国貿易統計の数字を読み解く