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中国主要経済指標に見る景気対策の難しさ
梅澤 利文
2024/09/17

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概要

中国国家統計局が発表した8月の主要経済指標によると、中国経済は全体的に冷え込みが見られました。小売売上高、工業生産、固定資産投資はいずれも市場予想を下回り、特に都市部の消費減速が顕著です。不動産市場の悪化が消費者マインドに影響を与え、地方政府の財政も悪化させています。中国当局は住宅ローンの緩和や家電購入補助金などの対策を講じていますが、効果は限定的です。




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中国8月の主要経済指標は総じて軟調で、成長目標達成に暗雲

中国国家統計局が9月14日に発表した8月の主要経済指標によると、消費動向を示す小売売上高は前年同月比2.1%増と、市場予想の2.5%増、7月の2.7%増を下回りました(図表1参照)。地域別にみると都市部の小売売上高は1.8%増で前月の2.4%増を下回り、地方の3.9%増を下回りました。都市部の消費減速が鮮明となる結果でした。

工業生産は4.5%増と、市場予想の4.7%増、前月の5.1%増を下回りました。固定資産投資は年初来前年同期比で3.4%増と、市場予想の3.5%増、前月の3.6%増を下回りました。低調な経済指標が続いていることから、24年の経済成長目標(5%前後)の達成に暗雲が漂っています。

中国の社会全体の融資規模が伸び悩むなど経済活動は停滞気味

8月の中国主要経済指標(小売売上、工業生産、固定資産投資)を振り返ると、中国経済に一段の冷え込みが見られました。堅調な輸出を受けて工業生産はある程度の成長率を確保しました。しかし、小売売上高は軟調で、固定資産投資は不動産投資が引き続き下押し要因でした。また、これまで固定資産投資のけん引役であったインフラ投資も24年8月が年初来前年同期比で4.4%増と、昨年8月の6.4%増を大幅に下回りました。

中国経済の悪化は、主要経済指標以外にも示されました。中国経済では貸出が経済の重要なバロメーターですが、中国社会全体の融資規模を残高ベースでみると8月は前年同月比で8.1%増と前月の8.2%増を下回り、減速傾向です。

なお、データの信頼性に疑問は残りますが、中国当局が発表する中国の消費者信頼感指数も低下(悪化)傾向です。

消費者マインドの悪化は小売売上高の品目を見ても明らかです。比較的堅調であった品目を見ると、食料が前年同月比で3.3%増、電気用品が3.4%増、医療品が4.3%増でした。

一方で、衣類は1.6%減、化粧品は6.1%減、家具が3.7%減、自動車が7.3%減でした。住宅市場の悪化を反映した家具や、自動車など耐久消費財が不振でした。また、宝石などの消費も抑えられており、節約志向の強さがうかがえます。

消費者のマインドが冷え込んでいる理由として若年層を中心とした失業率の増加などが考えられます。そして何よりも、不動産市場悪化の影響が最も懸念されます。14日に発表された8月の住宅価格は新築が前月比0.73%減、中古が0.95%減と引き続き下落傾向です(図表3参照)。

中国では住宅投資が個人の資産形成に重要な役割を果たしてきたことから、家計資産に占める住宅の割合が6割程度(調査によってはより高水準)と言われています。住宅価格の下落は、購入の先延ばしというマイナスの影響や、所有住宅価値の下落による逆資産効果も懸念されます。日銀の最近のペーパーによると、中国の住宅の資産効果には無視しえない大きさが示されています。

中国当局の対策が求められるが、決め手には程遠い印象

中国の不動産問題は地方政府の財政にも深刻な影響を与えています。地方政府の財源の1つである土地の使用権の売却収入が落ち込み、地方財政が悪化したことから、地方政府は投資に消極的というマイナスの側面が表れています。

さらに最近では、地方政府は土地売却収入の落ち込みの穴埋めを、規制強化や罰金の増加などで埋め合わせる動きが報道されています。このような罰金などの「対策」は景気をさらに冷やす恐れも懸念されます。

このような状況で、最近の中国当局の経済政策を振り返ります。直接的な住宅対策として、①住宅ローンの頭金割合引き下げや住宅ローン金利の下限撤廃、②地方政府が住宅在庫を買い取り保障性住宅へ転換することなどが5月に発表されました。特に、②は在庫となっている未完成住宅問題へのテコ入れ策として注目されました。しかし住宅在庫の問題を解決するには規模が小さいという問題があります。一方で、急激かつ大規模に住宅在庫問題に手を付けると、住宅価格が変動する懸念もあり、本当に有効な対策なのか疑問もあります。5月発表当初中国の不動産株の株価は対策への期待を受け上昇しましたが、足元では期待も縮小し、株価は元の水準に戻っています。

次に、消費回復を目指した政策です。5月ごろから地方政府を中心にエアコンやテレビ、冷蔵庫などの家電製品の購入に補助金(1割)を出す政策が実施されました。7月からは補助金の上限を引き上げ家電などの購入を押し上げる政策を導入しました。どの程度の即効性があるのかはわかりませんが、8月の小売売上統計を見る限り、家電には一定の効果があったようですが、小売全体の押し上げには程遠い対策であるように思われます。

中国の24年の成長目標達成は簡単ではないと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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