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9月のFOMC、大幅利下げは今後も続くのか
梅澤 利文
2024/09/19

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概要

9月のFOMCの利下げ幅について、市場の見方は分かれていました。筆者は0.25%の可能性もあると思っていましたが、0.5%の大幅引き下げとなりました。ただし、市場はこれを大幅な下げ局面の開始と見ていないようです。FOMC参加者の見通しなどでも、今後の利下げペースは比較的慎重に進められる見込みです。FRBは雇用市場を重視するスタンスにシフトしましたが、今後の政策もデータ次第のようです。




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9月のFOMCは、市場の予想は割れていたが、0.5%の大幅利下げを決定

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17-18日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利(フェデラルファンド(FF)金利)の誘導目標を通常の倍となる0.5%の幅で引き下げました。

FOMC参加者の政策金利水準の見通し(ドットチャート、図表1参照)によると、24年残りの利下げ見通しは1回(0.25%を1回)が7人、2回(0.25%を2回)が9人となりました。年内さらに大幅利下げを行うとの見通しは1人となっています(図表1参照)。なお、ボウマン理事は今回、0.25%の利下げ幅を主張して反対票を投じました。

ドットチャートや経済見通しを見るとタカ派的な側面もみられる

9月のFOMCは事前の予想では利下げ幅は0.5%と0.25%に分かれていました。FOMCでは、0.5%という大幅利下げが決定されましたが、米国債市場では利回りが上昇しました。市場は今回の決定を大幅な連続利下げの開始と、少なくとも現段階では、見ていないようです。市場はFOMCの発表内容やFRBのパウエル議長の会見などにタカ派(金融引き締めを選好)的な面を見出したようです。

まず、FOMCが積極的な金融緩和に一枚岩でないことが挙げられます。今年末のFF金利の水準はFOMC参加者の経済見通し中央値でみると(図表2参照)4.4%となっており、利下げ1回を0.25%とすると、2回という利下げが想定されています。しかし、ドットチャートでは、年内2回以上の利下げを10人が見込む一方、年内1回以下の利下げも9人が見込んでいます。しかも、9人のうち2人は年内これ以上の利下げは必要ないと考えています。

9月のFOMC前に時間を戻すと、年内は9月、11月、12月の3回会合が予定されていました。市場予想では9月の0.5%の利下げに加えて、あと1回は0.5%の利下げがあるとの見方が優勢でした。しかし、ドットチャートを見る限り、年内残り2回は各々0.25%にとどまる可能性が高く、1回の利下げにとどまることへの支持も相応に高いことが示されたことはタカ派的と思われます。

次に、25年以降の利下げの道筋を図表2で確認すると、25年末の金利水準は3.4%と、24年末の4.4%から1%の低下が見込まれています。来年の利下げ回数は4回で、これは前回の6月FOMCと利下げ回数の点では同じで、来年の利下げについてペースが加速したわけではないようです。

さらに26年に目を移すと、前回に比べ利下げの想定回数は減ることが示唆されています。そして、より重要なのは26年には中立金利(景気を冷やしも吹かしもしない金利水準)の目安とされる長期FF金利水準に到達すると見込まれていることです。中立金利は前回から引き上げられるなど、じわじわと上昇してきました。利下げの最終局面の水準がじわじわと切りあがっていることも、タカ派的と思われます。

大幅利下げの理由は不明確だが、データ次第の政策運営は確かだろう

今後の金融政策を占うと、ドットチャートや経済見通しから、連続的な大幅利下げの開始ではないことがうかがえます。パウエル議長が会見で利下げを急がないと述べたことと整合的です。一方、金融政策の方針は、「今後の政策はデータ次第」と述べていることから従来と姿勢は変わっていないようです。しかし金融政策を決定するにあたり重視するのが、インフレから雇用にシフトしたことは明白です。それは雇用についての記述が増えた声明文や、FOMC参加者の経済見通しを見ても明らかです。図表2にあるように経済見通しでは失業率の予想を大幅に悪化させているからです。

このことは、9月のFOMCで大幅利下げを決めた背景にもなっているようです。ただし、労働市場が悪化しているわけではなく、悪化懸念に対し手遅れとならないよう、前倒し的に利下げをしたとパウエル議長は説明しています。もっとも、図表2を見てもインフレが完全に収まったとは言い難い中での大幅利下げの説明には歯切れの悪さも目立ちました。記者から家賃高止まりについて質問されたことへの回答は説得力に欠ける内容でした。

FRBが労働市場を警戒し始めたのは7月の雇用統計で失業率が4.3%へ上昇したころからではないでしょうか(図表3参照)。8月月初に公表された7月の雇用統計後に開催されたジャクソンホール会議でパウエル議長が「力強い労働市場を支えるためなら出来る事を何でも実行する用意がある」と述べたのは大幅利下げの布石だったのかもしれません。幸い(?)8月に失業率は4.2%に低下し、大幅利下げの論拠を弱めたことは、今回の大幅利下げを分かりにくくしているように思われます。

今回の大幅利下げは単発となる可能性もありそうです。今後の利下げの道筋は様々なデータを注視する必要があり、事前の決め打ちは困難です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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