Article Title
9月の米雇用統計は堅調、景気後退懸念払しょく
梅澤 利文
2024/10/07

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

9月の米雇用統計で非農業部門の就業者数は市場予想を大幅に上回り、失業率も低下しました。平均時給も市場予想を上回り、7月の米雇用統計を受けて高まった景気後退懸念は後退したとものとみています。労働市場の悪化懸念を背景に大幅な利下げを織り込んでいた市場は修正を余儀なくされました。もっとも、労働市場が過熱局面から正常化に向かうプロセスは緩やかに継続している模様です。




Article Body Text

9月の米雇用統計は非農業部門就業者数などが市場予想を上回った

米労働省が10月4日に発表した9月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月比で25.4万人増と、市場予想の約15万人増、前月の15.9万人増を大幅に上回りました(図表1参照)。7月の就業者の伸びは8.9万人から14.4万人に、8月は14.2万人から15.9万人にそれぞれ上方修正されました。

失業率は4.1%と、市場予想、前月(共に4.2%)を下回りました。失業率は7月には4.3%まで上昇しましたが、上昇に一服感が見られます。平均時給は前年同月比で4.0%上昇と、市場予想の3.8%上昇、前月の3.9%上昇を上回りましたた。前月比も0.4%上昇と、市場予想の0.3%を上回りました。

労働市場の悪化が懸念された失業率の上昇は9月に改善した

9月の米雇用統計では、注目度の高い非農業部門の就業者数が市場予想を上回ったうえ、過去2ヵ月分は合計して7.2万人分が上方修正されました。反対に8月は8.6万人分下方修正されたので、月によって修正の方向は異なっています。

就業者数の伸びを部門別にみると、雇用の伸びは「教育・医療」、「娯楽・宿泊」、「政府」に偏っています(図表2参照)。ただし、「建設」は前月を下回るも2.5万人増と堅調な伸びを確保し、また「小売」は前月比で1.6万人増でした。3日に発表された9月の米ISM非製造業景況指数は54.9と堅調な数字となったこととも整合的で、9月の雇用回復は部門別に若干の幅広さも見られました。

失業率は4.1%と前月を下回りました(図表3参照)。7月の雇用統計以降、市場で注目されている「サーム・ルール」(景気後退との関係を示唆する統計的法則で直近3カ月間の平均失業率が過去1年の最低値を0.5上回れば、景気後退が始まった可能性を示唆)は9月が0.50と、前月の0.57を下回りました。突如として高まった景気後退懸念は、今回の数字で後退するように思われます。

もっとも、失業率は1月の3.7%から見れば緩やかながら上昇傾向です。7月の4.3%への上昇が急だったため悪化懸念が台頭しましたが、今回の数字で悪化は否定されるものの、米雇用市場はピークに比べ過熱感は後退するも、軟化は続いていると思われます。経済的理由によるパートタイマーなども失業者に含めたU6失業率は9月が7.7%と比較的高水準な点に注意は必要です。

失業者の中身を見ると、新規に職探しを始めた「新規参入者」や職探しを再開した「再参入者」の合計が4割程度で、景気後退期のように「恒久的失業者」などが失業者の大半という状況でないことが現状の雇用市場の状況と思われます。ただし、「恒久的失業者」が緩やかながら増加傾向なことなど注視が必要なデータも多くみられます。

平均時給も市場予想を上回り、時給の伸びの減速に一服感は見られた

平均時給は前年同月比で4.0%上昇と、市場予想を上回り堅調な数字となりました。賃金(人件費)は、サービス価格を左右する傾向があるだけに、インフレに勝利宣言するのは時期尚早といった声が高まることも想定されます。

部門別にみると(図表4参照)、平均時給の伸びが比較的高かったのは製造業などを含む財生産部門でしたが、同部門は雇用が加速したわけではないだけに、時間をかけてみる必要があります。

一方で、サービス部門は前月比0.3%上昇と、前月を下回りました。雇用が比較的順調に伸びた小売部門の平均時給に伸びがないなど、単月でしかも部門別となると判断が難しいものもあることから、こちらも時間をかけて平均時給の動きを見る必要がありそうです。

なお、平均時給を算出するときに分母となる平均労働時間は週次で見ると9月が34.2時間と、8月の34.3時間を下回りました。このことも平均時給を押し上げる要因となった可能性があります。

9月の米雇用統計から、2つの点が考えられます。1点目は、7月の雇用統計を受けて急速に高まった労働市場の悪化懸念や景気後退懸念はやや行き過ぎであったとみられることです。

2点目は米労働指標が強弱まちまちであるのは、労働市場が過熱局面から緩やかに軟化しながら正常化に向かっている途上であるからとみられ、今後の落ち着きどころの見極めが重要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応