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ECB政策理事会の主なポイントと今後の道すじ
梅澤 利文
2024/10/18

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概要

欧州中央銀行(ECB)は10月17日に政策金利を3.50%から3.25%に引き下げました。声明文でインフレ鈍化を利下げの理由に挙げ、物価の落ち着きに自信を示す一方で、サービス価格の鈍化のペースが鈍いことなどから今後の金融政策はデータ次第としました。ユーロ圏の経済指標をみると景気回復の鈍さも目立ち、連続利下げの必要性が高いようで、筆者もECBは当面、利下げを続けるとみています。




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ECBは市場予想通り政策金利を0.25%引き下げた

欧州中央銀行(ECB)は10月17日に開催した政策理事会(会合)で政策金利と位置付ける中銀預金金利を3.50%から0.25%引き下げ3.25%とすることを決定しました(図表1参照)。ECBは6月に利下げを開始し、7月は据え置きとしましたが、9月、10月と2会合連続での利下げとなりました。

声明文では、「ディスインフレ(インフレ鈍化)の過程は十分にオントラック(順調に進行中)」であり、「インフレ見通しは最近の経済活動指標の下振れに影響を受けている」と指摘し、今回の利下げの理由と説明しています。ECBのラガルド総裁は会合後の記者会見で、今後の金融政策は、「データ次第」、「会合毎の判断」と繰り返し説明しました。

ユーロ圏のインフレ率はECBの利下げを後押しする内容であった

前回の9月会合後の、ECB主要メンバーの発言や、最近のユーロ圏の経済指標から、10月会合での利下げに疑問はなく、市場予想も利下げを確実視していました。市場の関心は利下げを連続していつまで続けるのか、もしくは0.5%以上の大幅利下げは今後あるのか、といった点に注目していましたが、今後の金融政策については「データ次第」、「会合毎に判断」という従来の文言を踏襲するのみで、今後の道すじは示しませんでした。しかし、ユーロ圏の経済指標を見る限り、少なくとも連続利下げの可能性が高いと筆者はみています。

まず、ユーロ圏のインフレ率を振り返ります(図表2参照)。10月会合と同日に、利下げを支持するインフレ指標が発表されました。9月のユーロ圏の消費者物価指数(CPI、欧州連合(EU)基準)は前年同月比で1.7%上昇と、速報値の1.8%上昇から下方修正されました。ECBの物価目標の2%を下回る水準で、インフレ鈍化が明確なことから、声明文ではインフレ率が目標値まで低下する時期を従来の25年7-12月を25年に前倒ししました。

では、インフレ再加速のリスクはないのか? 会見でラガルド総裁は過去に高騰していたエネルギー価格の下落がインフレ鈍化の原因だが、今後数ヵ月はそれが反転する可能性があることや、人件費の高止まりを反映してサービス価格が高止まりしていることを懸念しています。図表2にあるように9月のサービス価格は前年同月比で3.9%上昇と依然高水準で、鈍化のペースも緩やかです。物価上振れリスクがゼロではないことから、「データ次第」、「会合毎に判断」という文言などを残し、物価動向に一応注意を払っていることもうかがえます。

もっとも、今回の利上げはある意味予告されており、ラガルド総裁は欧州議会での証言(9月30日)で、エネルギー価格の反転があったとしても一時的で、インフレ鈍化傾向に変わりがないとして利下げを示唆しました。この議会証言ではサービス価格についても改善を指摘しており、連続的に利下げを実施する可能性が高いと筆者はみています。

ユーロ圏の経済成長への逆風を無視できない

ECBの主要な目的は「物価の安定」であるとされています。したがって利下げの理由をインフレ鈍化とするのは当然とも言えます。

しかし、ユーロ圏の景気への配慮もインフレ鈍化同様、いやそれ以上に今回の利下げを支持した要因とみています。

ユーロ圏の景気について会見では鉱工業生産指数や製造業とサービス業の購買担当者景気指数(PMI)などに言及しました(図表3参照)。ラガルド総裁は会見で、景気鈍化を認める発言をしています。ユーロ圏の景気を懸念する声はタカ派(金融引き締めを選好)の重鎮であるシュナーベル理事からも聞かれました。シュナーベル理事は10月2日に「経済成長への逆風を無視できない」と発言しているからです。全会一致となった今回の利下げでは景気への配慮も共有されていたようです。

そこで、ユーロ圏のPMIを見ると、製造業は45.0と景気拡大・縮小の分かれ目である50を下回り続けています。国別のPMIを見ると、ドイツなど製造業を主力産業とする国の指数はより低く、輸出の伸び悩みや、エネルギーコストの上昇、高金利などが重荷となっていることがうかがえます。ユーロ圏が景気後退に陥る可能性は高くないとみていますが、利下げによる下支えは求められそうです。

サービス業PMIは50を超えてはいますが伸び悩んでいます。観光産業に頭打ちが見られます。それでもECBはユーロ圏の雇用市場は堅調なことや、貯蓄率が高いことなどから、消費はユーロ圏経済の押し上げ要因として期待しています。個人の手元には貯金があるとみているようです。しかし、貯蓄を選好しているのは高金利であることが背景とも考えられます。消費を刺激するには、金利を緩やかに押し下げる必要があるとみています。

ゼロとは言えないインフレリスクに配慮しつつ景気の底上げを図るため、ECBは連続的に利下げを進める必要があると筆者は考えます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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