Article Title
ロシア、BRICS首脳会議にかける思い
梅澤 利文
2024/10/28

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

IMFはロシアの24年と25年の成長率をそれぞれ3.6%、1.3%と予測し、来年の成長鈍化を見込んでいます。そのような中、ロシア中銀は政策金利を19%から21%に引き上げ、インフレ対策を重視しています。国内経済が問題に直面する中、プーチン大統領は外交に活路を見出そうと、ロシアで開催されたBRICS首脳会議で西側への対抗姿勢を示しましたが、主要な点では具体策を示せませんでした。




Article Body Text

  ロシア中銀は市場予想を上回る引き上げ幅となる利上げを決定した

国際通貨基金(IMF)は10月22日に四半期に1度の世界経済見通しを公表しました。IMFはロシアの24年と25年のGDP(国内総生産)成長率をそれぞれ3.6%、1.3%と予測し、来年に向け消費の悪化などを背景に伸びが減速すると予測しています。

ロシア中央銀行は25日に開いた金融政策決定会合で、政策金利を19%から2%引き上げて21%にすることを発表しました(図表1参照)。市場は利上げ幅を1%と予想していました。ウクライナ侵攻直後の22年2月の政策金利を超える水準となります。ロシア中銀は声明で想定を上回るインフレが続いているうえ、インフレ期待が高いことや財政政策拡大がインフレを助長していると指摘しました。

ロシアのインフレ率は物価目標を大幅に上回り、当面は引き締め姿勢

IMFがロシアの25年の成長率見通しを引き下げた主な理由は賃金の伸び悩みによる消費の悪化と投資の減速です。本来であれば利下げで景気を下支えしたいところですが、インフレ率も高止まりしています。9月の消費者物価指数(CPI、図表2参照)は前年同月比8.63%と、ロシア中銀の物価目標(4%)を大幅に上回っています。ロシア中銀のインフレ見通しは25年が4.5%~5.0%で物価目標の4.0%に減速するのは26年と見込んでいます。ロシア中銀は当面タカ派(金融引き締めを選好)姿勢を維持するとみています。

ロシア中銀がインフレの背景として財政拡大を指摘しましたが、主因は国防費の膨張です。ロシアの25年度予算案で国防費は13.5兆ルーブル(約20兆円)にのぼり、予算案全体の約32%を占めることが見込まれています。ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、国防費の突出は軍需産業には恩恵があるとしても、民間の投資や消費に悪影響が及ぶ可能性も想定されます。そうした中、ロシアのプーチン大統領は外交政策に活路を見出そうとしているようです。

BRICS首脳会談ではいくつかの成果はみられるが、課題は山積み

ロシア西部カザンで10月22日~24日の日程でBRICS首脳会議が開催されましたBRICSは従来5ヵ国(ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカ)でしたが、24年1月にイラン、エジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦(UAE)の4カ国が加盟し加盟国し9ヵ国となりました。カザンでのBRICS首脳会議は加盟国拡大後の最初の会議となりました。プーチン大統領は会見で加盟9カ国を含む計35ヵ国の首脳を含む代表が参加したことを強調しました。BRICSは世界人口の約45%と、主要7ヵ国(G7)の約10%を上回ります。

BRICS首脳会議は23日に全体会合で共同宣言(カザン宣言)を採択するなど成果も見られます。主なプラスの成果として、「パートナー国」制度の創設が挙げられます。 「パートナー国」の位置づけは明らかではありませんが、BRICSに加盟申請する段階の国などが考えられますが、詳細は今後の発表を待つ必要があります。いずれにせよ、パートナー国を参加国として広くとらえれば、 BRICSの規模は大きくなることが想定されます。

BRICSの主要国である中国とロシアはBRICSが欧米を中心とする西側勢力への対抗軸となることを目指していると思われます。そうした中、カザン宣言に、「違法な制裁を含む非合法な一方的強制措置が、世界経済や国際貿易に及ぼす悪影響を深く懸念する」として西側がドルを武器として利用していることを盛り込んだことなどに成果がみられます。ウクライナ侵略開始後、欧米は国際送金システムである国際銀行間通信協会(Swift)からロシアを締め出したことが背景にあるのは言うまでもないことと思われます。

ただし、共同宣言の大枠は欧米への対抗軸を目指している格好ですが、国によって思惑が相当異なるようです。世界の貿易や資金決済ではドルの比重が高く、ロシアは経済制裁で困難に直面しています。したがって、今回のBRICS首脳会議の事前の予想では(ドル以外の)独自の決済システムや、BRICS内での共通通貨構想が浮上するのではとの思惑もありました。

しかし、決済については相互に貿易が可能となる共通のクロスボーダー(国境を超えた取引)システムの構築の支持にとどまっています。また、通貨については加盟国間の決済における自国通貨の使用拡大を引き続き検討することが共同宣言で明記されています。BRICSにおける共通通貨は共同宣言に明記することさえ回避されました。

欧州における共通通貨であるユーロを見れば明らかなように、共通通貨を導入する場合、共通の中央銀行(ユーロ圏では欧州中央銀行)が金融政策を決定するなど主権をシフトする必要があります。インドやブラジルのように、BRICSと西側の国々の架け橋的、もしくは全方位外交として参加している国々には、そのような覚悟や意思があるようには思われません。

パートナー国制導入で、BRICSは今回、規模拡大の道筋を付けましたが、これも「総論賛成・各論反対」の恐れがあります。ブラジルはベネズエラがBRICSに加盟することに対し拒否権を発動したと報道されています。7月のベネズエラ大統領選では不正が疑われていますが、選挙管理当局は現在に至るまで、詳細な選挙結果を開示していないことをブラジルは問題視しています。ロシアなどがベネズエラを受け入れる考えをブラジルは否定した格好です。BRICSは規模拡大の用意はしたものの、様々な問題に直面する懸念もありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応