Article Title
インドネシア中銀、ルピア安定のための金融政策
梅澤 利文
2024/11/21

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インドネシア中央銀行は市場予想通り政策金利を据え置き、通貨ルピアの安定に向けて最善を尽くす方針を示しました。インドネシアのインフレ率は低水準ながら、ルピア安への懸念から今後は慎重な金融政策の運営が見込まれます。米国の金融政策などに不確実性があるうえ、プラボウォ政権の財政政策にも、一応注意は必要です。筆者はインドネシア中銀の来年の利下げ見通しを縮小させる予定です。




Article Body Text

インドネシア中銀は通貨安定を念頭に政策金利を据え置き

インドネシア中央銀行は11月20日に市場予想通り政策金利(7日物リバースレポ金利)を6.00%に据え置くことを発表しました(図表1参照)。インドネシア中銀は9月の金融政策決定会合で0.25%の利下げを決定しましたが、前回(10月16日)に続き今回の会合でも政策金利を据え置きました。

インドネシア中銀は今後の金融政策の方針として通貨ルピアの安定に向けて最善を尽くすことが示唆されました。なお、11月会合は、通貨ルピアの動向に影響するとみられるプラボウォ大統領の就任(10月20日)や、米大統領選挙でトランプ氏が次期大統領となることが明確となった後の最初の会合となります。

インドネシア中銀は、ルピア安定のための金融政策を示唆

インドネシアのインフレ率をみると24年の物価目標の中心値2.5%(±1%)を下回っています(図表2参照)。10月の消費者物価指数は前年同月比で1.71%と鈍化傾向です。物価だけを見れば、インドネシア中銀が利下げを決めても不思議ではありません。しかし、ルピア安への懸念が残る中では、追加利下げには慎重姿勢を当面維持するとみられます。次の追加利下げは来年となりそうです。

最近のルピアの動向を図表1で確認すると9月の利下げがルピア安のきっかけ(ただし、利下げがすべてではない)となったように見られます。9月18日の会合で市場は政策金利を6.25%で据え置くとの見方が大半でしたが、インドネシア中銀は意外にも利下げを決定しました。インドネシア中銀が先走った印象もあるだけに、次の利下げは市場環境やコンセンサスを確認しながら慎重に利下げプロセスを進めるものと思われます。

もっとも、9月の会合以降のルピア安は、利下げだけが背景ではなく、米国の金融政策や大統領選挙など外部要因の影響も大きいようです。米国金利は10月前後から上昇傾向に転じました。10月月初に発表された米雇用統計が堅調だったことなどを受け、市場は米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ見通しを後退させたためです。また、移民政策の強化などインフレ押上げ的な政策を主張するトランプ氏の支持率がハリス氏を上回り始めたことも米国金利の上昇要因とみられます。

この時期のインドネシアの5年国債利回りの動向を振り返ると、利下げを決定した9月の会合後、現地通貨建国債利回りは、金融緩和への期待からその後しばらく低下しました(図表3参照)。米国金融政策や米国債利回りの影響を受けやすいインドネシアのドル建国債利回りは10月頃から、資本流出を背景に現地通貨建と共に価格は下落(利回りは上昇)しました。この資本流出も10月前後からのルピア安進行の背景とみています。

米国の金融政策や、選挙で当選したトランプ次期大統領の政策は現時点では不確実性が高いとみられます。外部要因、特に米国の動向がもう少しはっきりするまでは動きづらいと思われます。

プラボウォ新政権は無難な滑り出しながら、評価はこれから

次にインドネシアの内部要因として、10月20日に大統領に就任したプラボウォ政権を振り返ります。プラボウォ政権の閣僚の就任式は翌21日に行われており順調な滑り出しとみられそうです。ただし、閣僚数はジョコ前政権時の34から48に増やしましたが、省庁を分割し、デジタル化などに対応したポストを用意したためとみられます。閣僚人事で注目された財務相はジョコ前政権から手堅い政策運営で定評があったムルヤニ財務相を留任させ、市場に安心感を与える面も見られました。

ジョコ前政権が8月に議会に提出した25年予算案を振り返ると、最優先項目はプラボウォ大統領が選挙期間中に公約としていた無料の学校給食制度の導入が盛り込まれ独自色も見られます。ただし、プラボウォ新政権はジョコ前政権の政策を継続することで選挙を戦ってきたこともあり、ジョコ政権が提案した巨大プロジェクトである新たな首都の建設計画にも巨額の予算が配分されています。

財務省の25年度予算における財政赤字対GDP比率の目標は2.5%と、同比率を3%以内とする財政規律を守る意向であるとともに、24年度(見通し)の2.7%を下回ることを見込んでいます。ただし、25年度予算の前提としてGDP成長率目標は、24年度と同じく5.2%としました。11月5日に発表された7-9月期GDP成長率が前年同期比で4.95%であったことから達成は不可能ではないかもしれませんが、ハードルは高そうです。そのうえ、プラボウォ新政権は防衛費の増強も目論んでおり、財政悪化によるルピア安にも注意が必要です。

米トランプ政権の政策が姿を現すのは就任後で、インドネシア中銀は外部要因を当面様子見すると見ています。またインドネシア財政にも注意を払うとみています。こうした中、筆者はインドネシア中銀が来年合計1%の利下げをすると見込んでいましたが、0.5%程度にとどまる可能性もありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応