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フランス政局混乱、何が問題で今後どうなるのか?
梅澤 利文
2024/12/02

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概要

フランスの政局が不安定で国債市場などに動揺が広がっています。2025年度予算案を巡る議論が難航していることが背景です。フランスは財政改革が求められ、増税や歳出削減を盛り込んだ予算案を提出しましたが、国民連合などの反対に直面し、妥協を迫られています。政局の混乱が続く中、S&Pはフランスの格付けを据え置きましたが、財政赤字削減や経済成長の見通しに懸念を表明しています。




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フランス政局不安で、信用力格差を示唆する独国債とのスプレッド拡大

フランス政局が不安定になっています。財政再建の柱となる25年度予算案を巡り、事実上ルペン氏が率いる野党の国民連合(RN)は、バルニエ首相に対し内閣不信任案の提出を繰り返し表明しています。政局の混乱を受けフランス国債利回りとドイツ国債利回りの格差(スプレッド)は、信用力の悪化を背景に、拡大傾向です(図表1参照)。欧州債務危機では財政悪化の象徴ともなったギリシャですが、財政改革の結果、同国の信用力は改善しています。足元ではギリシャの国債利回りはフランスと同水準です。

こうした中、11月29日にS&Pグローバル・レーティング(S&P)はフランスの格付けを据え置くことを発表しました。

フランスは25年度予算案をめぐる審議が下院で停滞

フランス国会で25年度予算の審議が難航する中、S&Pがフランスの国債格付けをAA-に据え置いたうえ、今後の見通しも「安定的」のままとしたことは、一瞬の清涼剤とはなりそうです。他の主要格付け会社はフランス政局が現在のように悪化する前に今後の見通しを「ネガティブ」に引き下げていた(フィッチ・レーティングスは10月11日、ムーディーズ・インベスターズ・サービスは10月25日に)からです。

しかし、S&Pは声明文でフランス政府が巨額の財政赤字を削減できなかった場合や、経済成長率が長期にわたりS&Pの予測を下回った場合には、格付けを引き下げる可能性を示唆しており、安心には程遠いと思われます。

まず、簡単にフランス政治が直面する問題点を整理します。フランスでは10月1日に通常国会が開会しましたが、課題は財政再建です。再建を主導するのは9月上旬に就任したばかりのバルニエ首相ですが、弱点は少数与党であることで、上院(議席数348)はともかく、下院(議席数577)では過半数を下回る少数与党です。下院は左派連合、極右(国民連合など)、大統領与党連合の3勢力に分断されています。

ユーロ圏ではコロナ禍で財政規律を緩和しましたが、財政規律を回復させる取り組みが始まっています。フランスの財政赤字対GDP(国内総生産)比率は24年度が6.1%程度となる見通しで、欧州連合(EU)の過剰な財政赤字是正手続き(EDP)の対象国であり財政改革への取り組みが求められています。大企業への増税など財政改革を盛り込んだ25年度予算案は、10月半ばに下院で審議が始まりました。フランス政府は財政赤字対GDP比率を25年度は5%に抑えたい考えです。

しかし、10月末にフランス政府が欧州委員会に提出した中期財政計画では、従来27年としていた同比率の目標(3%)達成時期を29年に先延ばしするなど見通しは厳しいようです。野党との予算案の交渉に苦慮する中、25年の目標値(5%)達成にも市場は疑問を呈しています。

議会では上院は問題ないとして、少数与党の下院において、25年度予算案を通過させるには国民連合などの協力が必要です。しかし、国民連合は「電力税引き上げ」、「年金の物価スライドの下方調整」など国民の負担となる政策に反対する構えで、これらをレッドラインに交渉を進めています。こうした中、「電力税引き上げ」は与党が見送り、国民連合は譲歩を勝ち取り勢いに乗ってます。

もっとも、バルニエ首相は25年度予算案を念頭に、議会の採決を経ずに法案を成立させる憲法49条3項の規定の適用をちらつかせるなど対決姿勢は維持しています。

しかし、憲法49条3項の規定の適用には相当のリスクが伴うと思われます。適用された場合、左派連合が内閣不信任案を提出する可能性があるからです。仮に極右の国民連合が内閣不信任案に同調した場合、内閣不信任案が成立し、現内閣は総辞職、予算案は廃案となります。左派と極右が手を結ぶことに筆者は疑問もありますが、懸念は高まっているようです。もっとも27年の大統領選挙での勝利を目指す国民連合が、現在の局面で勝負を仕掛けるのかは不透明です。当面は与党(または野党)の妥協の広がりに注目しています。

フランスの景況感の悪化は五輪後の反動減だけではないようだ

S&Pは今回の格付けレビューでフランスを据え置きましたが、懸案の25年度予算案審議が継続している中での判断だけに、今後の政治動向を想定しての判断ではないと思われます。ただし、声明文では憲法49条3項の規定に言及しており、これが発動された場合のリスクを想定しているものと思われます。そのような事態となれば、政局不安がフランス景気を押し下げるとみられるからです。

今回、 S&Pは据え置きとしましたが、格下げシナリオとして財政赤字を削減できなかった場合や、経済成長率が想定を下回った場合は格下げの恐れがあると警告しています。フランスの今の状況に合格点を与えたわけではなさそうです。

フランスの景気の先行きを製造業とサービス業購買担当者景気指数(PMI)で占うと、11月のPMIはユーロ圏全体のPMIを大きく下回りました。特にサービス業は五輪効果で夏ごろまでは好調でしたが、その後は景況感が急速に悪化しています。五輪後の景気のけん引役が見いだせない中、政局の不安定さがセンチメントを押し下げたとみられます。また、フランスはEUを離脱しない限り財政改革を行う必要があります。この難しい経済状況で内閣不信任案に同調するメリットがあるのか?少数与党を追い詰めている国民連合ですが、意外と難しい判断が求められる可能性もありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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