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ECB、利下げ既定路線は今回まで、今後は不確実
梅澤 利文
2025/03/07

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概要

欧州中央銀行(ECB)は3月6日の会合で、市場予想通り政策金利を0.25%引き下げ2.50%とすることを決定した。利下げは5会合連続となった。声明文で、政策金利の水準について「実質的に引き締め的でなくなりつつある」と指摘し、前回に比べハト派(金融緩和を選好)姿勢を幾分弱めた。ECB内部では金融政策について見解の違いがあるようだが、利下げ終了は徐々にではあるが視野に入り始めたようだ。




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ECBは3月の政策理事会で市場予想通り利下げを継続した

欧州中央銀行(ECB)は3月6日の政策理事会(会合)で、政策金利と見られている中銀預金金利を0.25%引き下げ2.50%とすることを決定した(図表1参照)。利下げは5会合連続で、昨年6月に利下げを開始してからは6回目の利下げとなる。この間の合計の利下げ幅は1.5%となった。今回の会合ではホルツマン・オーストリア州銀総裁が棄権(事実上反対)したが、それを除けば決定は全会一致だった。

声明文で、政策金利の水準について「実質的に引き締め的でなくなりつつある」と指摘し、前回の「引き締め的」に比べハト派(金融緩和を選好)姿勢を幾分弱めた。今後の金融政策は「データ次第、会合毎」に決定する方針を維持した。

ECBスタッフの経済見通しは概ね前回通り、インフレ鈍化は進行中と認識

今回のECBの会合で、筆者が事前に注目していたのは、①ECBの景気、インフレの見通し、②これまでハト派的であった金融政策の今後の動き、③最近の政治要因、トランプ政権の関税や欧州の財政政策拡大などの金融政策への影響に言及があるかに注目した。以下、これらの注目点に沿って今回の会合を振り返ろう。

ECBは今回、四半期毎の経済見通しを公表した(図表2参照)。景気認識についてECBのラガルド総裁は会合後の会見で、景気のリスクは、米国の貿易政策の不確実性による投資の減速などで、下振れ方向と指摘した。ECBスタッフのGDP(国内総生産)成長率を見ても前回(24年12月)から下方修正されている。一方で、インフレ見通しの変化は限定的だった。25年の消費者物価指数(欧州連合(EU)基準CPI、HICP)は2.1%から2.3%へ引き上げられたが、エネルギー価格の上昇を調整しただけとラガルド総裁は説明している。インフレはECBの物価目標に向け順調に鈍化していると見てよさそうだ。

次に、②の金融政策の今後について、「データ次第、会合毎に」政策金利を決定し、「事前に特定の道筋を約束しない」方針は維持された。一方で、政策金利が「実質的に引き締め的でなくなりつつある」と指摘することで、将来的に利下げ停止が近づいていることも示唆された。ECBは足元まで5会合連続での利下げを行った。市場では、次(4月)とその次(6月)も利下げを続け、中立金利(景気を過熱も冷却もしない金利)の中央値である2%にまで政策金利を引き下げた後は据え置き、という見方が比較的多かったように思われる。

しかし、ラガルド総裁は会見で、物価目標達成までにかかる時間はやや長くなるとの見方を示し、今後は「より漸進的なアプローチ」で金融政策を運営すると指摘した。一般に金融政策は予見可能性を重視した場合、連続して利下げ(引き締め局面では利上げ)を続ける傾向がある。ラガルド総裁は、「データから判断して利下げが最適なら利下げを、反対に最適な決定は据え置きとデータが示すなら、利下げは見合わせる」のが漸進的なアプローチの意味と説明した。早ければ4月会合で据え置きが決定される可能性もあるわけで、筆者もシナリオの変更を検討している。

米関税政策や欧州の財政政策拡大が今後の金融政策に影響しそうだ

物価目標達成までの時間はやや長くなる中、景気回復が鈍いことから、利下げ停止時期などについて金融政策はただでさえ難しい局面だ。そのうえ政治要因がさらに判断を難しくする恐れがある。

米国の関税政策はEUに対する具体策が固まっていないこともあり、言及は少なかったが、関税政策の不確実性による投資への悪影響や、関税による輸入インフレ懸念が指摘された。ただし言及が少なかったというのは影響が小さいことを意味しない。関税が引き上げられれば物価上昇リスクは相当に高まると思われるだけに、ラガルド総裁は強い警戒感を維持する必要性を指摘している。

欧州の財政政策が拡大する可能性が高まった点については会見でも多くの記者が質問し関心が高かった。ラガルド総裁はこれらの政策が浮上したのはここ数日のことであり、経済への影響についての具体的な言及は回避した。

ラガルド総裁は、欧州委員会が欧州による防衛力強化に向け8000億ユーロの国防費拡大を提案したことや、ドイツでは財政改革で5000億ユーロの国防費およびインフラ投資の拡大が提案されたことを指摘した。ドイツでは財政拡大にむけ、これまで財政健全に貢献してきた「債務ブレーキ」を緩和する方向で検討が進められている。

欧州の財政拡大観測を受け、ユーロ圏の国債利回りは急上昇した(図表3参照)。ラガルド総裁は債券市場の利回り上昇を冷静に見守る姿勢であった。財政政策のタイミングなど具体的な内容がわからない今の段階では当然の判断だろう。ただし、今後財政政策の実施により、景気押し上げなどにつながると認識されるなら、利下げ姿勢はさらに後退する方向に向かうように思われる。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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