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米国 利上げ局面終了へ
市川 眞一
2023/02/03

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概要

1月31日、2月1日のFOMCで、FRBは25bpの利上げを行い、政策金利の誘導水準を4.50~4.75%とした。物価高の主役が資源から賃金にシフト、インフレは構造化する一方で、上昇率は縮小しつつある。FRBは利上げの最終局面に入ったのではないか。もっとも、逼迫した雇用に支えられ、賃上げは高水準で推移する見込みであり、当面、利下げの可能性も少ないだろう。



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米国のインフレ:主役は資源から賃金へシフト

今年最初となったFOMCの終了後に発表された声明では、物価に関して「インフレは幾分緩和されつつあるが、高止まっている」との認識が示された。「somewhat(幾分)」としながらも、昨年3月に利上げが開始されて以降、初めて物価上昇率がピークアウトする可能性を示唆した表現と言える。

商務省が1月27日に発表した昨年12月の「個人所得及び支出統計」によると、FRBが重視する個人消費支出物価は、総合指数が前年同月比5.0%、コア指数は同4.4%上昇した(図表1)。平均時給の上昇率が同4.6%なので、コア指数ベースでは実質賃金の伸びが水面下から浮上したわけだ。


 

1990年から新型コロナ禍以前の2019年までの30年間、コア個人消費支出物価の年平均上昇率は2.0%だった。91年12月の旧ソ連崩壊で東西冷戦が終結、米国1国主導によるグローバリゼーションの恩恵と言える。世界のサプライチェーンが統合され、中国、ASEAN諸国やメキシコなどの新興国が急速な工業化を遂げたことにより、相対的に労働コストの低い国・地域からの製品輸入が拡大したからだろう。

この水準に比べれば、FRBの指摘するとおり、現在のインフレは「高止まっている」状態だ。もっとも、物価を押し上げる主役は、2021、22年の資源から、賃金にシフトしつつある。米国は構造的な人手不足に陥っており、事業主は必要な人員確保に向け継続的に処遇の改善を図らざるを得ないだろう。

結果として、高水準の賃金上昇率が続き、それは価格転嫁を通じて物価に反映される可能性が強い。

ただし、賃金主導型のインフレは、実質賃金の伸びがプラスであれば、経済にとってかならずしも悪材料ではなく、むしろ消費を刺激する要因だ。23年の米国経済は、底固い景気と高めの物価上昇率が共存する局面になるのではないか。

 

利上げはあと1~2回:バイデン大統領の再選戦略にも合致

昨年12月の前回FOMCで参加者が示した政策金利の見通しでは、23年末のFFレートは加重平均で5.00~5.25%のレンジになるとの予測が示されていた(図表2)。つまり、25bpずつあれば、利上げは3月と5月のあと2回になる。


 

 

ジェローム・パウエル議長率いるFRBは、引き締め局面であることもあり、同議長を含む幹部の講演などを通じて、金融政策の変更を事前に市場が織り込むよう、細心の注意を払ってきた印象だ。つまり、外部環境に大きな変化がなければ、利上げはあと1回、もしくは2回と想定される。

それは、ジョー・バイデン大統領にとっても、再選に向けた政治的シナリオに沿うものと言えるのではないか。戦後、再選を目指しながらも1期で終わったジェラルド・フォード、ジミー・カーター、ジョージ・H・W・ブッシュ、ドナルド・トランプの4大統領は、中間選挙後2年間のいずれかの年に米国がマイナス成長に陥っていた。2023、24年の景気後退を避けるためには、早い段階での利上げ終息が必要条件と言えるだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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