Article Title
戦略不在? 岸田政権
市川 眞一
2023/07/21

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率が低下している。2024年9月の自民党総裁選で再選を目指すなら、それまでに衆議院を解散、総選挙で勝つことが必須の条件だろう。チャンスは秋の臨時国会中、来年の通常国会会期末の2回だが、今の状態で秋の解散は難しそうだ。内政・外交共に有権者を惹き付ける具体策があるようには見えず、政権は戦略不在の様相が色濃い。



Article Body Text

■ 視界不良となる解散のタイミング

7月に入り既に報道大手4社が世論調査を実施した。岸田内閣の支持率は、当該4社の平均で6月の40.2%から、7月は35.0%へ5.2%ポイント低下している。昨年12月を底に5月まで回復基調にあったものの、6、7月は2か月連続で下落した(図表1) 。足元はマイナンバーを巡る混乱が、政権にとって大きな打撃になっているようだ。

 

 

来年9月には自民党総裁選が予定されている。その時点で衆議院の任期が残り1年であることを考えると、岸田文雄首相が再選により長期政権を目指すのであれば、総裁選までに衆議院を解散して、総選挙で勝つことが必要だろう。

自民党が結党された1955年11月以降、解散は22回あった。このうち12回が9~11月に集中しているのは、歴代の首相が秋の臨時国会で争点を明確にし、国民に信を問うスケジュールを重視してきたからだろう。6月が3回と秋に次いで多いが、予算及び重要法案を仕上げた上で、通常国会会期末での解散が選択された結果と見られる。一方、2、3月が1回もないのは、次年度予算案の国会審議に支障を来さない政治的配慮ではないか(図表2) 。

 

 

つまり、岸田首相にとって、有力な解散のチャンスは今秋の臨時国会、もしくは来年の通常国会会期末と言えよう。ただし、現在の内閣支持率の推移を考えると、秋の解散に関して展望が拓けているようには見えない。

 

 

 

■ 結局、ばら撒き型か・・・

岸田首相にとっての救いは、日本維新の会を除き野党に勢いがない上、立憲民主党が衆議院小選挙区での他の野党との候補者調整を巡って迷走していることだ。報道大手5社の直近の調査による政党支持率は、自民党が平均33.2%で高水準に踏み止まり、野党側では日本維新の会が9.5%と立憲民主党の6.4%を上回った(図表3)。

 

 

また、NHKの調査によれば、過去のべ10名の内閣総理大臣の退陣時の内閣支持率は、平均で27.1%だった(図表4)。もっとも、これには自民党総裁としての任期満了で円満に官邸を去った小泉純一郎元首相が入っている。同元首相を除いた場合の平均は24.4%だ。

 

 

岸田内閣の支持率は、NHKの調査だと38%であり、まだ政権維持に危険ゾーンとされる30%割れには至っていない。衆議院の任期が2025年10月まで、そして次の参議院選挙は2025年7月なので、自民党全体としては、衆議院解散がない限りにおいて、国政選挙を強く意識しなければならない時期ではない。従って、直ぐに「岸田降ろし」の動きが顕在化する可能性は低いだろう。

ただし、来年秋まで支持率が停滞し、衆議院を解散できない場合、総裁選は選挙を戦う顔を選ぶことになり、岸田首相は不利な状況に追い込まれかねない。現在の閉塞状況を打開するためには、何等かのテコ入れ策が必要だろう。

岸田首相は、9月中旬にも内閣改造・党役員人事に踏み切る見込みだ。人心の一新を図った上で、政策に取り組む意向と推測される。もっとも、経済政策に関して大きなリスクは採れず、結局、財政に依存したばら撒き型となる可能性が強い。実質的に国債の受け皿となってきた日銀も、イールドカーブ・コントロールの微調整こそあり得る一方、大きな政策の変更は難しいのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


USスチール買収審査は分断の象徴か!?

日銀の利上げを制約する要因

企業倒産件数が示す変化

「トランプ政権」の人事と死角

日本企業の問題点 法人企業統計より

米国景気が堅調な二つの背景