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- エネルギー政策で躓くドイツ経済
IMFによれば、2023年、ドイツはマイナス成長が見込まれている。理由の1つはエネルギー価格の高騰だろう。同国の電力料金はEUの平均を43%上回る。4月に原子力発電所を停止、燃料費が影響した結果だ。一方、石炭の利用により、発電時における温室効果ガス排出量が少ないわけではない。再生可能エネルギーを軸としたドイツの戦略は、岐路に差し掛かっているのではないか。
■ 過半数の企業が政策に不満
IMFが7月25日に発表した最新の『世界経済見通し』によれば、2023年、G7でマイナス成長が想定されるのはドイツの▲0.3%だけだ(図表1)。エネルギー費用の高止まりが景気低迷の一因だろう。
家計エネルギー価格指数(HEPI)を使い、家庭向け電力価格をドル換算すると、ドイツは1kWh当たり0.40ドルだった(図表2)。
EUの平均は0.28ドルなので、ドイツの電力料金は欧州のなかでもかなり割高である。ちなみに、日本は0.29ドル、米国は0.16ドルであり、ドイツだけでなく、英国、イタリアの欧州主要3か国は、国際競争力において大きな問題を抱えていると言えるだろう。
ドイツ政府は手をこまねいて見ているわけではない。ロシアによるウクライナ侵攻を受けたエネルギー危機下、2021年に1kWh当たり6.5セントだった再生可能エネルギー法(EEG)に基づく賦課金について、産業向け、家庭向け共に昨年前半は大幅に減額、後半以降はゼロとした。EEG賦課金は今年もゼロで据え置いている。
しかしながら、燃料の調達コスト上昇が強く影響、価格を抑え切れていない。ドイツ商工会議所が8月29日に発表した会員企業3,572社を対象とする『エネルギー転換バロメーター調査』によれば、「エネルギー転換政策が企業の競争力に与える影響への評価」に関し、32%の企業がネガティブ、20%は非常にネガティブと回答した。
■ ウクライナ戦争で狂ったシナリオ
ドイツは再エネの活用を核とする『エネルギー転換政策』を推進している。2020年7月には、主力電源の1つである石炭・褐炭発電を2038年までに全廃する法案が連邦議会で可決された。さらに、今年4月15日には、稼働していた3基の原子力発電所が予定通り停止され、廃炉へ向かっている。その結果、今年上半期の総発電量に占める再エネ比率は51.7%へと上昇した(図表3)。
もっとも、再エネによる発電量は、前年同期に比べ0.7%減少している。景気停滞により総発電量が同10.9%減少するなか、原子力発電所の停止に加え、石炭・褐炭、天然ガスなど化石燃料による発電量が15.7%減ったことから、全体に占める再エネの比率が向上したのだった。
そうしたなか、ドイツのエネルギー政策が抱える問題が、価格高騰だけではないことも浮き彫りになりつつある。G7において1kWhの発電に伴い排出されるCO2の量は、昨年、フランスが最も少なく85グラムだった(図表4)。
一方、石炭比率の高い日本は495グラムに達している。もっとも、脱化石燃料で優等生とされるドイツは385グラムであり、米国やイタリアの後塵を拝する結果となっている。
隣国のフランスは原子力比率が62.7%に達し、26.3%の再エネと合わせてクリーンエネルギーが総発電量の89.0%を占めた。ベースロードに原子力を活用、供給の不安定な再エネとの相互補完関係を重視するフランスは、コスト、効果の面で明らかに先進的と言えるだろう。
ドイツは、再エネの活用を拡大すると同時に、良好な関係にあったロシアからの天然ガス調達をエネルギー政策の基本としてきた。その戦略は、ロシアによるウクライナ侵攻でシナリオが大きく狂っている。再エネの優等生として注目を集めてきたドイツだが、抜本的なエネルギー戦略の見直しを迫られているのではないか。
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