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最近の原油価格上昇の背景と注目点
梅澤 利文
2023/09/20

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概要

原油価格が7月ごろから上昇傾向となっています。産油国による原油の減産や、底堅い原油需要見通しなどが背景となっています。しかし、インフレ抑制も道半ばで、景気の先行きも回復が見通せるのか疑問が残ります。このような状況下での減産は、原油価格上昇による需要の減速を招く可能性もあり、今後は産油国にとっても判断が難しい局面となるのかもしれません。



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原油価格、23年6月末から足元まで3割近く上昇した

サウジアラビアの減産延長やロシアの輸出削減維持を受け、原油相場は6月末から足元にかけて3割程度上昇しています(図表1参照)。2023年9月19日、ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物先物市場では10月渡し価格が1バレル=91.20ドルで取引を終えました。

19日の原油先物価格は終値ベースでは4営業日ぶりに下落しました。最近の原油先物価格の上昇が急ピッチであったことから、利益確定の動きがみられました。しかし、世界的な需給逼迫見通しなどを背景に、一時は昨年11月以来の高値となる1バレル=93.74ドルを付ける場面もありました。

サウジアラビアとロシアを中心とした減産が原油価格を押し上げ

市場のインフレ減速期待を打ち消すかのように、原油価格が上昇傾向を強めています。主な背景は産油国の自主減産と(図表2参照)、石油需給見通しの底堅さと思われます。これらの背景を整理するとともに、原油価格上昇の今後を占います。

まず、減産の最近の動きを確認すると、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は4月3日付のプレスリリースで、サウジアラビアやロシアに加え、イラクやアラブ首長国連邦(UAE)などの産油国の合計で日量166万バレルの減産を表明しました。OPECプラスは6月月初の第35回閣僚級会合で24年末までOPECプラス加盟国全体の原油生産量を日量4,046万バレルに調整することで合意しています。

このころまでの原油市場の動向は比較的落ち着いていました。しかし、7月からの減産では様相が異なり、市場の需給懸念が高まりました。

7月月初、サウジアラビア国営通信がエネルギー省の話として、7月に始めた日量100万バレルの原油の自主減産を8月も続けると報道しました。ロシアも同日、8月に50万バレル減産すると発表しており、タッグを組んで原油価格を(減産で)押し上げる構えを示しました。その結果、図表1にあるように原油価格は上昇傾向に転じました。

もっとも、8月末までの減産であったこともあり、原油価格は8月には下落する局面もありました。

しかし、9月月初にサウジアラビアが日量100万バレルの原油の追加自主減産を23年末まで延長すると表明し、原油市場は再び上昇傾向に転じました。なお、市場では、1ヵ月の延長が見込まれていただけに、年末までの延長はサプライズとなったことも原油価格を押し上げたとみられます。

各国際機関により温度差はあるが、堅調な石油需要が見込まれている

原油需要が比較的底堅いとの見通しも、原油価格を支持した可能性があります。9月の第3週にOPECや国際エネルギー機関(IEA)が公表したレポートで需要の増加が予想されました。OPECの月報では、世界全体の石油需要は前年比2%増の日量1億206万バレルと予想し、来年は日量1億431万バレルと予想しています(図表3参照)。世界1位の石油消費国である米国の需要はおおむね横ばいな一方で、中国の需要は今年に比べ来年は3.7%増加が見込まれています。不動産市場の悪化で中国の景気の先行きに懸念もありますが、OPECの予想では中国の石油需要の落ち込みはそれほど見込んでいない印象です。しかし、IEAの予想では来年前半の需要はやや下落、後半持ち直しとしており、堅調な需要を見込むといってもIEAはOPECほど楽観的ではないようです。筆者はIEAの見通しほうが現実的ではないかと考えています。

では、原油価格を占ううえで今後注目すべき点は何か? これまでの経緯を考えると産油国の減産姿勢の持続性が注目されます。原油価格は昨年の高値を抜けてはいませんが、昨年の高値は米国が利上げを始めた頃の話で、現在の水準が景気に与える影響は異なる可能性があります。そうした中での減産姿勢を続けるかが注目されます。

次に中国の景気動向です。世界2位の石油消費国の中国の景気回復の行方は不確実性が高く、当面原油価格を左右する要因となりそうです。

世界の金融政策に影響を与える米連邦準備制度理事会(FRB)の対応にも注目です。原油価格上昇はガソリン価格の上昇などを通じてインフレを押上げる要因とみられるだけに懸念を強めていると思われます。しかしながら、原油価格と金融政策をあまり直接的に結びつけるのも避けたいところかと思われます。金融政策への影響を推し量るためにも、米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル議長の会見などに注目しています。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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