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不透明感強まる台湾総統選挙
市川 眞一
2023/12/01

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概要

来年1月13日の台湾総統選まで43日となった。最新の世論調査では、現与党・民進党の頼清徳副総統と国民党の侯友宜新北市長の支持が拮抗している。一方、中国の習近平政権にとり、経済停滞による国民の不満を緩和するため、対台湾政策は極めて重要だろう。2024年5月に予定される蔡英文総統の交代は、中台関係が新たな緊張状態に入る転換点となる可能性がある。



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■経済の停滞が頼氏への逆風へ

台湾総統選は、11月24日に立候補が締め切られ、蔡英文現総統の与党である民主党から頼副総統、最大野党である国民党から侯新北市長、そして第3党の民衆党から柯文哲前台北市長の3氏が正式に出馬した。3候補の最大の違いは中国との関係だ。頼氏が蔡総統の現状維持路線を受け継ぐ一方、大陸にルーツを持つ国民党の候氏は中国との融和を訴えている。また、柯氏も対話を重視しており、基本的に融和的と言えよう。

有力メディアである美麗島が11月21~23日に行った世論調査では、頼氏の支持率が31.4%でトップを維持したものの、候氏が31.1%でほとんど差はなくなった(図表1)。8月に42.5%で大きくリードしていた頼氏だが、このところは失速気味だ。



頼氏の苦戦は、経済の停滞感が大きいだろう。大手シンクタンクの中華経済研究所は、10月20日、2023年の実質成長率予測を従来の1.60%から1.38%へ下方修正した(図表2)。特に外需が足を引っ張り、昨年の2.35%から減速する見込みだ。世界的な半導体不況に加え、中国経済の弱さが要因の1つであることは間違いない。さらに、中国は農作物の輸入管理強化などを通じ、民進党の支持層へ揺さぶりを掛けている。


国民党と民衆党が候補者の一本化に失敗、この点は頼氏にとって追い風だ。しかし、有権者の関心は、今のところ足下の経済に向いる模様で、総統選の帰趨は予断を許さない状況にある。

■台湾海峡を覆う緊張感

来年1月13日は総統選だけでなく、台湾立法院の選挙も同時に行われる。台湾は一院制で、立法院の定数は113名、任期は総統と同じ4年だ。

現在の勢力は、蔡英文総統の与党である民進党が62議席、同党系無所属1議席、国民党38議席、同党系無所属2議席、民衆党が6議席などになっている(図表3)。蔡総統の任期中は、常に民進党が過半数を握っており、行政院と議会の関係は概ね安定していた。



最新の世論調査では、民進党の単独過半数維持を望む有権者が27.8%、国民党による多数奪還に期待する有権者が26.8%であり、総統選挙同様、両党は拮抗状態と言える(図表4)。



立法院選挙の結果も現段階では非常に読み難い混戦になった。例えば総統選挙で頼氏が勝利しても、議会では少数になる可能性があるし、その逆も十分に起こり得る。総統と議会がねじれた場合、新総統の政権運営はかなり難しくなるだろう。

総統選、立法委員選挙がどのような結果でも、台湾が直ぐに独立や統一を目指すとは考え難い。民意の大勢は何れも望んでいないからだ。

もっとも、習近平共産党総書記(国家主席)が任期を終える2027年秋までに、中国が台湾に対して何等かの行動を起こすシナリオは十分に考え得る。中国経済が停滞、国民の政権への不満が高まりかねず、それを抑える何かが必要だろう。

TSMCがアリゾナ州(米国)、熊本(日本)、ザクセン州(独)で生産拠点の強化を図っている。各国の積極的な誘致活動と補助金に加え、将来の台湾有事を想定した供給網分散化の意図があるのではないか。総統選後を睨んだ動きと考えられる。

総統選、立法委員選挙の帰趨は予断を許さない。ただし、結果の如何に関わらず、台湾海峡の緊張感が高まる可能性に注意すべきではないか。

 

 

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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