Article Title
岸田政権の安定度
市川 眞一
2023/12/15

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

自民党派閥のパーティー券売上に関する疑惑で、東京地検は安倍派を中心に本格的な捜査に着手した模様だ。岸田文雄首相は、松野博一官房長官など4閣僚を実質的に更迭、萩生田光一自民党政調会長なども近く退任する見込みとなった。この件は岸田首相にとっても大きなダメージだが、今のところ政権の安定度が崩れたとは言えない。野党の支持率が上がっていないからだ。



Article Body Text

■ 疑惑の打撃は岸田首相に及ぶ

自民党派閥のパーティー券問題は、当初、20万円を超えて購入した政治団体があったにも関わらず、各派の政治資金収支報告書に記載されていないことが問題視された。事実なら政治資金規正法違反ではあるが、派閥に所属する複数の議員が同一団体へパーティー券を販売、名寄せができていなかったことが理由と見られ、政治資金収支報告書の訂正で終わっていたかもしれない。

しかしながら、11月29日、神戸学院大の上脇博之教授がこの件を刑事告発、東京地検が受理して特捜部による捜査に至り、重大な事案である可能性が台頭した。仮にノルマ超過分を派閥、議員ともに報告書に記載しなかった場合、もしくはノルマ超過分が議員の事務所に残り、議員側が報告書に記載していなかった場合・・・いずれも事実なら裏金と言われても止むを得ない(図表1)。



特に自民党国会議員の99名が所属する最大派閥の安倍派への疑惑が深まったことで、岸田政権全体を揺さぶる事態に至った(図表2)。同派は岸田首相を支える主流派の中核であり、松野博一官房長官、西村康稔経産相など4閣僚、自民党では萩生田光一政調会長、高木毅国対委員長など重要ポストへ人材を送り出してきたからである。


岸田首相は、4閣僚を実質的に更迭、自民党幹部からも安倍派を外す意向のようだ。ただし、既に内閣支持率は各世論調査で軒並み20%台へ落ち込んでおり、さらなる打撃は避けられないだろう。

■ ポイントは野党の支持率

政治資金を巡る新たな疑惑の発覚により、岸田首相は追い込まれたように見える。しかしながら、依然、自民党主流派である安倍、麻生、茂木、岸田4派閥に谷垣グループは、同首相を支える構えを崩していない。理由は、他に一致して担げる総理・総裁候補がいないからではないか。

また、2009年8月30日に行われた総選挙で自民党が大敗して下野した際には、参議院選挙において民主党が圧勝した2007年7月の時点で、同党の支持率がNHKの世論調査で20.5%に達していた(図表3)。当時の自民党の支持率は31.8%でまだ10%ポイントの差はあったものの、そこから急速に両党の支持率は接近している。



一方、12月11日、NHKが発表した最新の世論調査では、岸田内閣の支持率が前月に比べ6%ポイント低下の23%、自民党の支持率は同8.2%ポイント低下の29.5%だった。もっとも、野党第一党の立憲民主党の支持率は7.4%に止まるため、自民党との間には20%ポイント以上の差が存在する。さらに、大手メディア5社の調査の平均でも、自民党は30.1%であり、立憲民主党の6.3%、日本維新の会の7.6%を大きく上回った状態だ。



今後、特捜部の捜査が進むに従って、新たな事実が明らかになれば、岸田内閣及び自民党への有権者の見方がさらに厳しくなる可能性は否定できない。しかしながら、政権交代が実現するには、自民党の分裂を前提としない限り、衆議院総選挙における野党の勝利が前提になる。小選挙区で多数の議席を得るには、何れかの政党への支持が急増して自民党と拮抗するか、もしくは広範な野党の選挙協力が必須だろう。現時点において、そうしたシナリオの実現性が高いとは思えない。

岸田首相は打たれ強く、政権基盤の安定は依然として保たれている。ただし、自民党内を二分するような大きな課題へ取り組むことは難しいだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


円安とインフレの悪循環

米国大統領選挙 アップデート②

岸田政権による次の重点政策

東京はアジアの金融ハブになれるか?

米国の長期金利に上昇余地

新たな中東情勢下での原油価格の行方