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読めない米国大統領選挙
市川 眞一
2024/03/15

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概要

米国大統領選挙は、民主党がジョー・バイデン大統領、共和党はドナルド・トランプ前大統領の候補者指名が確実になった。バイデン大統領の支持率が低迷する一方、トランプ前大統領は熱烈な支持層と厳しい批判層を抱えている。両者の支持率は拮抗しており、本選は全く読めない。そうしたなか、リズ・チェイニー前下院議員など共和党内のトランプ批判勢力の動きが注目される。



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■ バイデン大統領は不人気だが・・・

米国の大統領選挙は、日本の選挙と比べてやや複雑だ。11月5日の一般投票は、候補者に投票するものの、選出するのは各州に割り当てられた総数538名の選挙人である。メーン、ネブラスカ2州を除き、1票でも多く獲得した候補がその州の選挙人を総獲りするため、時として不思議な結果がもたらされる。例えば、2016年の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン候補が全米で6,585万票を獲得、6,299万票のトランプ候補を凌駕したものの、選挙人の獲得数はトランプ候補が304名であり、227名だったクリントン候補を上回った。

各州で選出された選挙人は、12月の第2水曜日の直後となる月曜日に当選者を決めるための投票を行う。今年の場合は12月17日だ(図表1)。翌年1月6日、連邦議会上下院合同会議において選挙人投票の開票が行われ、上院議長である現職の副大統領が勝者を宣言する。



今回の大統領選、2大政党である民主党と共和党の候補者は、前回と同じバイデン大統領、トランプ前大統領になることが確実になった。既に両候補は激戦が予想される州で舌戦を繰り広げている。


ABC系のニュースサイトであるファイブサーティエイトの集計によれば、本選を8ヶ月後に控え、最新の世論調査でバイデン大統領の仕事に「満足している」との回答は38.0%であり、「満足していない」の56.1%を大きく下回った(図表2)。ただし、今回の大統領選挙は、この現職の不人気がかならずしも結果に結び付くわけではないだろう。

■ 鍵を握る無所属候補

バイデン大統領は、国論を二分するガザ地区を巡る米国の姿勢、不法移民問題で板挟みの状態にある。また、81歳の年齢への懸念は根強く、若年層の有権者から支持を得られていない。

一方、トランプ前大統領は熱烈な支持者が少なくないものの、無党派層に加え共和党支持層にも多くの批判者を抱えている模様だ。その結果、前回と同じ顔触れの一騎打ちと仮定した有力5調査の平均では、バイデン大統領の支持が逆転、トランプ前大統領をわずかながら上回った(図表3)。





今後、台風の目となりそうなのがリズ・チェイニー前下院議員ではないか。ディック・チェイニー元副大統領を父に持つ同氏は、本来の共和党主流派としてトランプ前大統領を厳しく批判してきた。これまで、退任を発表した共和党のミッチ・マコネル上院院内総務やポール・ライアン元下院議長、ジョージ・ブッシュ元大統領などが、同前下院議員の言動を支持するコメントを発表している。

スーパーチューズデー直後の3月6日、チェイニー氏はXへトランプ前大統領の再選を阻止するため、「私たちには8ヶ月の猶予がある」と投稿した。同氏が無所属で大統領選へ立候補する可能性も取り沙汰されている。その場合、共和党票の一部が同氏へ流れる可能性は否定できない。

一方、民主党系ではジョン・F・ケネディ元大統領の甥、ロバート・ケネディJrが大統領選挙への出馬に意欲を示してきた。「ケネディ家の異端児」とされる同氏だが、世論調査では10%前後の支持を得ている(図表4)。バイデン大統領に批判的な民主党系有権者の支持を得ているのだろう。

今回の米国大統領選は、2有力候補者とも勝ち切る決め手に欠ける感が否めない。従って先が読めず、1992年、2000年の大統領選同様、無所属候補が鍵を握るのではないか。現段階で投資判断に選挙結果を織り込むのは避けるべきだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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