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- 政策金利5%台でも軟着陸する米国経済
2022年3月に利上げを開始して以降、米国経済の後退説が続く。しかし、景気は堅調に推移、ソフトランディングしようとしている。背景にあるのは、1)労働市場の逼迫、2)家計のバランスシートの健全性と資産効果、そして3)高金利による利子所得の増加だろう。貯蓄余剰の家計の場合、金利の上昇はかならずしも悪材料ではない。これは、日銀の出口戦略にも言えることだ。
■ 賃上げと資産効果
3月末時点で、米国の個人向け与信総額17兆6,900億ドルの70.3%を占める住宅ローンは、90日以上の延滞率が0.60%に止まっていた。サブプライムローンが焦げ付いたリーマンショック期、ピークとなった2010年1-3月期にこの比率は8.89%へと上昇している。
FRBが急速な利上げを行ったにも関わらず、住宅ローンの延滞が増えていない理由の1つは、住宅価格が上昇し、家計の負債残高との間に大きな乖離、即ち評価益が生じていることだろう(図表1)。リーマンショック期には、4年半に亘って家計の債務がホームエクイティの時価を上回り、米国の家計は実質的な債務超過の状態だった。
資産効果に関しては、株価上昇の影響も大きいと見られる。米国の家計が直接・間接的に保有する株式は金融資産の28.0%に相当する50兆9,565億ドルだ。住宅同様、株式の保有により、家計には大きな含み益が生じているはずだ。
もちろん、最も重要なファンダメンタルズとしては、雇用市場が堅調であり、賃金が高い伸びを示してきたことが挙げられる。FRBが利上げを開始した2022年3月以後、家計の給与所得は年率5.3%増加してきた(図表2)。
米国のGDPの68%を個人消費が占める。賃金の伸びと資産効果が相乗的に消費を支えたことで、FRBが大胆な利上げを行ったにも関わらず、米国経済はソフトランディングへ向かっているのだろう。
■ 利子所得が利払いの増加分を相殺
さらに、見落とされがちなのは、米国において家計の金融資産の残高が負債総額を大きく上回っていることではないか。FRBによると、2024年3期における個人金融資産は122兆5,161億ドルだった(図表3)。このうち、15.0%に相当する18兆3,307億ドルが預金、同じく9.0%の10兆9,718億ドルが直接・間接保有の債券だ。政策金利の上昇により預金金利や債券の発行金利が上昇すれば、家計には利子所得の増加が見込まれる。
FRBの利上げに伴い、2022年1-3月期と比較した支払利息は、2024年1-3月期に2,343億ドルの負担増だった(図表4)。一方、この間、家計の受け取った利子所得は2,622億ドル増加している。家計にとって、受取利息の拡大が利払い費の負担増加分を完全にオフセットしたと言えるだろう。
金利上昇により、家計の所有する不動産や株式の価格が下落すれば、逆資産効果を懸念しなければならない。しかしながら、利上げ局面において、この2つの資産価格は共に上昇した。つまり、マクロ的に見た場合、FRBによる利上げは家計にとって必ずしもマイナスには作用していないのだ。
金利は、それ自体が付加価値を生むわけではない。ただし、経済活動によって生み出された付加価値の分配を決める役割を果たす。つまり、一般に金利が高ければ借り手から貸し手へ所得が移転し、金利が低い場合、それは貸し手から借り手への所得移転に他ならない。
日本では、日銀の出口戦略が景気に与える影響への懸念が強いようだ。もっとも、家計の場合、2023年末の時点で金融資産が2,141兆円に達する一方、負債は388兆円に止まった。金利上昇は家計の利子所得を増やす可能性がある。利上げで苦労するのは、超過準備の付利金利引き上げで収支の悪化が想定される日銀自身、そして887兆円の純債務を抱える政府だろう。
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