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金と株式の組み合わせのもたらす運用効率の向上
塚本 卓治
2024/10/09

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概要

金利低下は金価格の上昇要因となり、2004年以降過去2回の米国の金融政策転換局面では金価格は2年で約50%上昇した。この例に倣えば今後1年以内に1トロイオンス=3,000ドルに達する可能性がある。長期的な視点では、金は株式との組み合わせで運用効率が高まる点に注目だ。また、今後の日米の金利差の縮小を考えると、円高への対策として為替ヘッジも一考に値する。



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金利低下で金価格は上昇

米国連邦準備制度理事会(FRB)は9月17~18日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利の誘導目標を0.5ポイント引き下げ、金融引き締めから金融緩和へと政策転換を行った。FRBが物価の安定と雇用の最大化という二つの責務のうち、インフレリスクが低下し、雇用市場の弱さが懸念されると判断した結果である。

債券市場はこうした金融政策の転換を先行して織り込む傾向がある。新たに発表される経済指標や中央銀行関係者の発言を受けて将来の金利動向を予測し、それを織り込みにゆくからだ。特に米2年国債利回りは、こうした政策金利の見通しを敏感に反映するものと考えられている(図表1参照)。年初来の動きを見ると、5月以降、利下げ予想の高まりを受けて利回りは低下傾向にあった。このような局面では金価格は上昇する傾向があり、5月頃から金への投資需要も増加に転じている。では、今後の金価格はどのように推移するのだろうか。過去の事例をもとに考察する。



利下げ期における金の値動きと分散効果

機関投資家や年金基金が金への投資を容易に行えるようになった2004年以降の金融政策転換期を振り返ると、2006年と2018年が該当する。

それぞれの年の最後の利上げ日を起点に、その後約2年間(500営業日)の金価格の推移を見ると、それぞれ約50%、47%と大幅な上昇を示した(図表2参照)。参考までに、同期間の米国株式(配当込み)の推移は、それぞれ+8%と+53%となり、まちまちの動きとなった。



これらの事例からも、金融政策転換期には金価格は上昇し、株価が伸び悩んだ場合にも金は安定的に上昇していたしていたことがわかる。

今後の金価格の見通し

長期的には金価格は「通貨としての希少性」(後述)と、中国やインドの経済成長に伴う長期的需要拡大に支えられ、景気循環による投資需要の変動はあっても上昇し続けると考えている。

では今後1年ではどうだろうか。筆者は9月から米国の金融政策は金融緩和局面に入ったが、同様の過去の2回の事例に沿って推移するならば、  1年以内に1トロイオンス=3,000ドルへと上昇する可能性があるとみている。

先述の二つの事例では、利上げ停止から約2年後に金価格は約50%上昇した。今回の米国の利上げ停止は2023年7月26日で、金価格は約1トロイオンス=2,000ドルであった。過去の例に倣えば、2年後の2025年半ばまでに1トロイオンス=3,000ドルに到達する計算になるからだ。

2000年以前に遡れば金を取り巻く環境が異なる事もあり、高水準にあった金利が長期下落する中で金価格はずっと下落トレンドにあったし、もとより相場変動には上振れ、下振れを伴うので断定はできない。

上振れ要因としては、ロシアや中東の地政学リスクの高まり、米国大統領選挙に伴う混乱、来年初頭に再燃が予想される米国債務上限問題、さらには米国国債の格下げリスクなどが想定される。こうした状況下では「有事の金」として金価格は上昇しやすい。また、米国政府の債務拡大により、長期的には信用リスク拡大に伴う「悪い金利上昇」が起きる局面でも、信用リスクのない「安全資産」として金の需要拡大が起こり得る。

一方、金価格の下振れ要因としては、米経済が減速せず利下げ期待が後退することや、地政学リスクの後退などが考えられる。金の先物オプション市場では金のネットロングポジションが高水準となっていることから、こうした想定外のリスク要因が発現すれば、相応の下落の可能性もある。

ただし、価格が下がれば買いたいという需要も根強く、下落局面では押し目買いも入りやすい。長期的に上昇が見込まれるのであれば、下落はむしろ買い場を提供するものと考えることもできる。

米国株式(円換算)に金を組みいれることで「運用効率」は高まった

過去20年を振り返ると、米国株式(円換算、為替の影響も加味した値動き)に金を組み入れることでリスク低減効果に加え「運用効率」(リスクに対するリターン)の向上をもたらした。それは世界国債(円ヘッジ)の組み入れの効果を上回った(図表3参照)。



米国株式(円換算)と金(円換算)との分散効果をみてみよう。それぞれ異なる動きをする傾向があるため、米国株式のみを100%保有するよりも、金(円換算)を10%、20%と組み合わせてゆくと、ポートフォリオのリスク値は17.9%から、16.5%、15.2%と低下してゆき、その一方でリターンは少しづつ上昇した。その結果「運用効率」は、米国株式(円換算)50%と金(円換算)50%との組み合わせで最大に近づいた。

次に米国株式(円換算)と金(円ヘッジ)との分散効果をみてみよう。金(円ヘッジ)と、金(円換算)と比べると為替変動の影響を取り除いている分、さらに米国株式(円換算)とは異なる動きをする傾向がある。米国株式100%に、金(円ヘッジ)を10%、20%と組み合わせてゆくと、リスク値は17.9%から、16.0%、14.2%と、金(円換算)よりもリスク値が低下し、米国株式(円換算)60%と金(円ヘッジ)40%とを組み合わせると、この「運用効率」は最大に近づいた。

次に、米国株式(円換算)と世界債券(円ヘッジ)との組み合わせもみてみよう。米国株式に世界債券を10%、20%と組み入れると、リスク値は、17.9%から、16.0%、14.2%と低下し、米国株式(円換算)30%と世界国債(円ヘッジ)70%との組み合わせで「運用効率」は最大に近づいた。

以上の3つの「運用効率」が最も高い組み合わせをみると、その値(シャープ・レシオ)は0.95、0.94、0.84となり、米国株式に金を組み合わせた方が債券よりも「運用効率」は高く、またリターンも倍以上となった。

 

「円建て」の落とし穴

今後、日本から金に投資をする際に注意すべき点がある。それは、金は国際的な市場でドル建てで取引されており、日本から投資する場合、金(円換算)は米ドル円レートの影響を受けるということだ。

米国では政策金利の引き下げが決定され、今後もさらなる利下げが数年にわたり続くと予想されている。一方、日本ではゼロ金利政策の解除が行われ、今後は政策金利の引き上げが予想されている。こうした真逆の金融政策は日米金利差の縮小につながり、それは米ドル安・円高圧力となる。こうした円高による金価格(円換算)の下落圧力を抑えるためにも、為替変動リスクを低減する「為替ヘッジ」の重要性はますます高まってゆくと考える。

今年に入ってからの金価格(円換算)と米国株式(円換算)のチャートを見てみよう(図表4参照)。7月から8月にかけての急速な円高進行により、金価格(円換算)と米国株式(円換算)はともに大きく下落したが、金価格(円ヘッジ)は比較的安定した値動きとなっている。



為替ヘッジには一定のコストがかかるものの、米国株式などと組み合わせた分散投資や運用効率向上を目指すにあたり金(円ヘッジ)の活用もこれからはより注目したい。

 

(ご参考)長期の金価格の見通し

資産運用にとって重要となる長期的視点から金の価格変動要因を考えてみよう。

2000年に入り足元までを振り返ると、金は米国株式を上回るリターンとなっていたことはご存じだろうか。1999年末から2024年9月末までの24年9カ月の間に、S&P500(配当込み)は米ドル建てで約6.2倍となったが、金価格はそれを上回る約9.1倍となった(図表5参照)。



では、なぜ金は利息も配当も生み出さないにもかかわらず、これほどまでに上昇してきたのか。その一つの要因は「金の通貨としての希少性」、より厳密には、通貨の代替とも考えられる金の実物資産としての希少性にあると考えられる。

金はその美しさ、腐食に対する耐性、そして加工の容易さから、古くから装飾品や宗教的な儀式に重用されてきたが、また貨幣的な機能にも注目され、古くから金は通貨そのものでもあった。そして1971年まで金は米ドルの価値の裏付けでもあったこともあり、今でも米ドルの代替通貨とも考えられている。

金は実物資産でもあり、その生産量には鉱山生産という制約があるため、年間1-2%しか増産できない。現在の金価格でこのままのペースで生産を続けると、あと十数年で地上の金は掘り尽くされるとも言われている。

一方、1971年以降の米ドルは金の裏付けを持たない「不換紙幣」となっており、危機対策や経済対策、戦費調達のために政府が必要とするだけ発行が可能となった。ではどれだけ米ドルは増えてきたのだろうか。

米ドルのM2(マネーサプライ)の推移を見ると、1999年末から2024年9月までに約4.6倍となった。こうしてみると、金は米ドルと比較して相対的に希少性が高いことがみてとれるが、こうした「通貨としての希少性」が米ドルベースでの金価格の上昇につながったと考えられる。金を主体としてみると、金に対して米ドルの価値が下落してきた、とも考えられる。

こうした観点でさらに歴史を長期的に振り返ると、米ドルは金利を考慮しなければ金に対してその価値が100分の1以下となった(図表6参照)。その大きな原因として考えられるのは、過去2度にわたる世界大戦や大恐慌、世界金融危機、そして新型コロナショックなどの危機的状況において、景気下支えや景気回復を目指した通貨供給量の増加などが考えられる。



足元の地政学リスクの高まり、将来的な景気減速リスク、そして米大統領選でどちらの候補が新大統領となっても米国では財政支出拡大が予想されていることを考えると、資産運用における分散投資によるリスク低減と運用効率の向上という観点に加え、「資産保全」のために金を保有するという観点も重要性が高まっているのではないだろうか。

 

NISA制度の非課税投資枠が拡大、 投資期間も無期限化された

このように金保有の重要性が高まる中、日本では今年よりNISA制度が見直された。非課税投資枠は大幅に拡大し、投資期間は無期限化され、恒久的な制度へと生まれ変わった。

金を現物で保有すると、譲渡益に対して総合課税となり、一定の特別控除額はあるものの税率は給与所得と合算して所得に応じて55%を超えることもある。一方でNISA制度対象の投資信託などを活用すれば、非課税での投資も可能だ。

ポートフォリオの運用効率向上であれ、資産保全であれ、金に長期投資をするのであれば、こうしたNISA制度を利用できる投資信託などの活用も一考に値するのではないだろうか。


塚本 卓治
ピクテ・ジャパン株式会社
エグゼクティブ・ディレクター 運用本部 投資戦略部長

日系証券会社にて債券およびデリバティブ業務に従事した後、外資系運用会社および日系ファンド・リサーチ会社にて投資信託のマーケティングを担う。通算20年以上にわたり運用業界で世界の投資環境を解説。ピクテではプロダクト・マーケティング部長等を経て、現職。経験豊富なストラテジストが揃う投資戦略部を統括する傍ら、自らも全国の金融機関や投資家を対象に講演を行う。マサチューセッツ工科大学(経営学修士)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト


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