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大型経済対策は役に立つのか?
市川 眞一
2024/11/29

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概要

石破内閣は、11月22日、『国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策』(以下「総合経済対策)を閣議決定した。総事業規模39兆円、2024年度補正予算は13兆9千億円に達する。もっとも、こうした大型対策は、政府債務の増加により国債市況を不安定化させ、日銀の出口戦略の難易度を上げることになりかねない。また、円安の要因として逆効果になる可能性もある。



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■ G7で最も高い政府純債務対GDP比率

今年度当初予算の一般会計は112兆5,717億円であり、これに補正を加えると126兆5千億円程度になる(図表1)。昨年度が当初と補正の合計で127兆5,804億円なので、若干の縮減に見えるかもしれない。もっとも、昨年度は将来へ向けての防衛費増額の財源を確保するため「防衛力強化資金」が新設され、特別会計からの繰り入れなどで3兆3,806億円が充てられた。これを除けば、2023年度の一般会計は124兆1,998億円なので、今年度の歳出は実質的に増額だ。


財政法は、第29条1項において、予算の追加を伴う補正予算は、「予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費」との条件を設けている。しかしながら、これで補正予算の編成は17年連続になり、新型コロナ禍後も大型化している。歳出項目の多くも「緊要」とは言い難く、事実上、当初予算と一体化したと言えるだろう。


IMFによれば、日本の政府純債務は2008年度に名目GDPを上回り、2024年度は951兆685億円と推計されている(図表2)。対名目GDP比率では153.9%になった(図表3)。G7で日本に次ぐのはイタリアの128.7%であり、以下、フランス107.1%、米国101.7%、英国92.4%と続く。


このところ、米国の国家債務の急増が市場で話題になっているが、フローベースの経済規模との対比で日本はその1.5倍に他ならない。それでも、国債市況が安定を維持してきたのは、日本がデフレだったからではないか。

■ 懸念される財政拡大の副作用

デフレの下、日銀は半ば無制限に長期国債を購入することが可能だった。マネタリーベースを大量に供給しても、日銀当座預金勘定に銀行による超過準備として積み上がり、皮肉にも経済に対する実質的な影響が大きくなかったからである。

量的・質的緩和が採用される直前の2013年3月末、日銀の保有する国債・財投債は93兆8,679億円だった。それが、今年6月末には564兆8,033億円へ470兆9,354億円増加している(図表4)。この間、国債・財投債の残高増加額は277兆1,813億円だ。結果として、国債・財投債の発行残高に占める日銀保有分のウェートは、2013年3月末の13.5%から、今年6月末には58.0%へ上昇している。デフレ下で日銀がバランスシートを無限に拡張できたからこそ、一般政府の債務は順調に消化されてきたのだろう。

ちなみに、1991年12月の旧ソ連崩壊以降、米国主導の下、世界ではグローバリゼーション、即ちサプライチェーンの統合が進んだ。その過程において、中国、ASEAN諸国、メキシコなどが工業化、先進国に大量の製品を供給したことにより、主要国は約30年間に亘り物価の安定を維持してきた。

一方、現在の世界は分断に向かっている。米国第一主義を隠さないドナルド・トランプ次期大統領は、その象徴的な存在と言えそうだ。

分断の時代には、ヒト・モノ・カネの自由な移動が妨げられてコストが上昇し、構造的なインフレとなり易い。そうしたなか、トランプ次期大統領が公約通り『基礎的関税』を導入すれば、米国の物価上昇圧力はかなり強まることが想定される。

いつまでもデフレ感覚で財政出動に依存した場合、日本では経済の構造改革が遅れ、国債市況の不安定化、円安による悪性インフレを招きかねない。少なくとも、意図せざる長期金利の上昇が続くと想定すべきではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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