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日本企業の問題点 法人企業統計より
市川 眞一
2024/12/06

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概要

7-9月の法人企業統計では、資本金10億円以上の金融・保険を除く大企業の場合、売上高が前年同期比4.2%増、営業利益は同21.5%増だった。これで、14四半期連続の増益だ。ただし、過大な資産の圧縮は進んでおらず、総資産回転率は低水準のままである。不採算事業の整理・撤退による資産圧縮は最重要課題で、それに伴い配当、自己株取得など株主還元が求められよう。



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■ 「内部留保=現預金」ではない

上場企業との重なりが多いと見られる法人企業統計の大企業の場合、2024年7-9月期、自己資本は47兆9,826億円で過去最大を更新、自己資本比率は2019年10-12月期の43.8%からやや低下したものの、40.9%の高水準だった(図表1)。この肥大化した自己資本は、株主資本利益率(ROE)が低い要因であることは間違いない。


自己資本のうち、利益準備金から自己株式を差し引いたいわゆる「内部留保」は284兆8,858億円だった。10年前は147兆9,011億円なので、年率6.8%のペースで増加している。この間、売上高の伸びは年率1.3%ポイントであり、内部留保はかなりハイペースで拡大していると言えよう。


ただし、必ずしも資本の部に計上された内部留保により、資産の部において手許流動性が積み上がったわけではない。過去10年間の手許流動性の増加額は33兆2,082億円で、内部留保とのギャップは大きく広がった(図表2)。つまり、「内部留保=現預金」と考えるのは明らかな間違いだ。利益剰余金は資金調達が過去の利益の積み重ねであることを示しており、それが設備投資の原資となったことも十分に考えられる。


「内部留保に課税せよ」と主張する政党もあるが、利益剰余金は法人税納税後に積み立てられており、それは二重課税に他ならない。また、内部留保は企業が保有する現預金の多寡を意味せず、課税すれば納税のための現金の確保に苦労する企業が多発するだろう。

■ 課題はスピード

日本企業の真の問題は、資産規模に対する利益水準、即ちROAが低いことであり、その裏付けが分厚い内部留保であることだ。結果として、ROEも低水準になり、企業価値の指標である株価純資産倍率(PBR)が低水準を抜け出せない。

ちなみに、資産の部において過去10年間で最も大きく増加したのは、固定資産に計上されている株式だ。その額は121兆2,693億円に達する。具体的には海外子会社株式や政策投資、持ち合い株式である。バランスシート上では、貸方(右側)の負債と資本の合計に対する内部留保の比率が高まるに連れ、借方(左側)では総資産に対する保有株式のウェートも上昇してきた(図表3)。

最近は株式持ち合いの解消、政策投資の縮減が進み始め、対総資に対する株式の比率は2020年1-3月期の28.7%をピークに緩やかなペースで減少、今年7-9月期は27.1%だった。

ただし、現段階では全く十分ではない。それを端的に示すのが総資本回転率で、1990年代初頭は1.0回を上回っていたが、足下は0.53回へと落ち込んだ(図表4)。これは、日本の大企業が無駄な資産を抱えており、資産回転率が低水準となる結果、ROAの低下が続いていることを示すだろう。

日本企業の企業価値が向上するためには、資産の圧縮が重要であり、不採算事業からの撤退、遊休資産の売却が課題と言える。その場合、必然的に自己資本も縮小しなければならない。自己株取得と消却、増配などによる内部留保の取り崩しを伴うことになるだろう。言い換えれば、株主還元は資産の圧縮と表裏である必要があるわけだ。

今回の法人企業統計は、日本の大企業がROAの向上へ向け漸進する姿を浮き彫りにした。ただし、問題はスピードが市場の求める水準に達していないことである。自己改革ができない場合、上場企業は戦略的な買収圧力に晒されるのではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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