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中国全人代、成長率目標に訳あり
梅澤 利文
2019/03/05

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概要

全人代の内容はある程度、市場予想または事前の発表通りでサプライズは今のところ限定的です。ただ、これまでの公表内容を振り返ると、19年の経済成長率について減速を想定するも急激な悪化は見込んでいないこと、債務削減の方針は維持する意向であると見られます。



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中国全人代:19年の経済成長率目標は6.0~6.5%に引き下げ

中国の第13期全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)第2回会議が2019年3月5日、北京で開幕しました。李克強(リー・クォーチャン)首相は所信表明にあたる政府活動報告で19年の経済成長率の目標を「6~6.5%」にすると表明、18年の「6.5%前後」から2年ぶりに引き下げました。

なお、中国当局は付加価値税(VAT)の引き下げも発表しました。過剰債務懸念や米中貿易戦争に対処しながら、景気減速への対応に取り組む姿勢を示しました。

 

 

どこに注目すべきか:全人代、活動報告、PMI、融資平台、債務削減

全人代の内容はある程度、市場予想または事前の発表通りでサプライズは今のところ限定的です。ただ、これまでの公表内容を振り返ると、19年の経済成長率について減速を想定するも急激な悪化は見込んでいないこと、債務削減の方針は維持する意向であると見られます。

まず、経済成長率は28年ぶりの低水準だった18年の6.6%を下回る6~6.5%を目標に設定しています。貿易戦争の影響などを踏まえ、市場の一部には下限を下回る成長を予想する声もありますが、やや悲観的と思われます。

確かに悲観するのも尤もで、例えば中国の製造業購買担当者景気指数(PMI)は最新の2月が49.2で、グラフも右肩下がりです(図表1参照)。米中貿易戦争が成長の重石で新規輸出受注は低下傾向ですが、新規受注は内需中心に足元回復しており、今後底打ちの可能性も考えられます。

また、中国のマネーサプライ(M2)や、(グラフにはありませんが)マネタリーベースにも底打ちや回復傾向が見られます。預金準備率の引き下げの効果等が出始めた可能性もあります。米中貿易戦争は、長期的に覇権争いとして続くにしても、貿易については緊張緩和の機運もあり、目標範囲の上限に近い成長も場合によっては達成可能と見ています。

もっとも、幅を持たせた成長目標は新興国の資本流出が懸念された16年の「6.5~7%」に続くもので、中国当局も、どこか不安を感じながらの目標設定なのかも知れません。

中国当局の不安の一つが過剰債務です。19年の財政赤字対GDP(国内総生産)比率を2.8%とし、18年の2.6%より拡大させ財政政策の意欲も見せました。ただ3%程度の予想もあった点を踏まえると財政拡大にやや慎重な印象です。

中国債務は非金融民間が大部分を占めますが、実態は国有企業です(図表2参照)。中でも実質的には地方政府の債務ながら融資平台(資金調達事業体、分類は国有企業)などを経由した不透明な資金調達への懸念が高まっています。非正規の「隠れ債務」の実態解明に当局は着手するなど解消の意向は見られますが紆余曲折も想定されます。

ある調査で、隠れ債務を政府債務に含めると、政府債務残高対GDP比率が60%台と警戒水準に上昇するとの試算もあり、対応は待ったなしです。一方、15年頃、非正規の資金調達を急激に止めたことで一気にインフラ投資が止まり中国経済が低迷したこともあります。エンジンを止めずに修理する複雑な経済運営が中国政府に求められています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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