Article Title
米国短期金融市場の異変
梅澤 利文
2019/10/01

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

銀行間の資金取引を行う短期金融市場などで、四半期末、特に年末に資金需要の高まりから一時的に金利が上昇するケースはよく見られます。しかし、月の半ばにここまで金利が急上昇するのは異例と思われます。幸い、信用リスク悪化に伴う金利上昇を支持する証拠は見当たらないようです。それゆえに、今後の対応に注意が必要です。



Article Body Text

NY連銀:レポ金利高騰を受け、銀行の準備金を増やす必要の可能性を示唆

ニューヨーク(NY)連銀のウィリアムズ総裁は2019年9月30日、米紙NYタイムズとのインタビューで、米短期金融市場が最近見舞われた混乱を繰り返すリスクを抑えるため(図表1参照)、将来的には銀行の準備預金を恐らく増やす必要がある可能性もあるとの認識を示しました。

米短期金融市場では、9月16、17日に翌日物レポレートが急上昇し、17日には一時的に10%程度まで上がりました。ただ、足元では、NY連銀による連日のオペにより、レポレートは低下しています。

 

 

どこに注目すべきか:翌日物レポレート、LCR、準備預金、買いオペ

銀行間の資金取引を行う短期金融市場などで、四半期末、特に年末に資金需要の高まりから一時的に金利が上昇するケースはよく見られます。しかし、月の半ばにここまで金利が急上昇するのは異例と思われます。幸い、信用リスク悪化に伴う金利上昇を支持する証拠は見当たらないようです。それゆえに、今後の対応に注意が必要です。

レポ金利(金融機関同士が国債などを担保に短期資金を貸し借りする際の金利)が上昇しました。仮に、信用悪化に伴い金融機関同士が貸し渋ることで金利が上昇したとすれば最悪のシナリオです。しかし信用力の目安となる信用スプレッドなどに変化はほとんど見られません。

今回の短期金利の上昇の背景は正確にはわかりませんが、既に報道されている要因として、16日は企業の税金支払いが集中したこと、米国国債の決済に資金需要が高まったことなどが指摘されています。

ただ、これだけの要因でここまで金利が急上昇するとは考えにくく、他の要因も考える必要がありそうです。例えば、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、金融危機(リーマンショック)後の銀行規制が要因となった可能性を指摘しています。

話題となるのは、流動性比率規制(LCR)です。銀行の安全性を高めるためにLCRは導入されましたが、銀行は余剰資金の運用先として、米連邦準備制度理事会(FRB)の準備預金(当座預金)、より正確にはそのうちの法定準備を上回る過剰準備での運用を選好しています。自己資本算定の上でも信用リスクが考慮される銀行間市場よりFRBの準備預金に資金を集中させる傾向があります。その分、他の市場の流動性が低下する可能性があります。

恐らくもっとも問題なのは、FRBが17年10月からバランスシート縮小に伴い、準備預金の規模も縮小していることです(図表2参照)。先のNY連銀のウィリアムズ総裁の発言もこの点を意識しているものと見られます。

FRBは金利上昇を抑制すべく、おおよそ10年ぶりとなる翌日物システムレポ(自己勘定による売り戻し条件付き買いオペ)を復活させ資金を供給しました。さらにウィリアムズ総裁は、短期金利上昇時いつでも利用できる常設翌日物レポファシリティーの可能性に言及しています。ただ、これらの対応は、流動性供給が主な目的です。準備預金の適正水準が不明な中、規模不足が金利上昇の原因ならば別の対応が求められます。その場合は国債購入再開も視野に入りそうですが、今のところ、対応は先の話と思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが

2月の米雇用統計は波乱材料とならず