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- トルコリラ安の要因を整理する
トルコリラ安傾向が続いています。リラは3月20日に大統領令で突然トルコ中銀のアーバル前総裁が解任され大幅下落しました。後任のカブジュオール総裁は19%の政策金利を維持していますが、リラ安傾向が概ね継続しています。ハト派(金融緩和を選好)と称されるカブジュオール総裁ですが、利下げをしたわけではありません。足元のリラ安の背景を改めて振り返ります。
トルコ中央銀行:市場は6月の金融政策決定会合で政策金利を据え置くと予想
トルコ中央銀行は2021年6月17日に金融政策決定会合を開催することを予定しています。市場予想は主要政策金利の1週間物レポ金利を年19%で据え置くことを見込んでいます(図表1参照)。
トルコ統計当局は6月3日に5月の消費者物価指数(CPI)を発表しました。総合CPIは前年同月比で16.59%、コアCPIは16.99%と水準は高いものの、共に市場予想や前月を下回りました(図表2参照)。
どこに注目すべきか:トルコリラ、中銀総裁、インフレ率、流動性
トルコリラ安傾向が続いています。リラは3月20日に大統領令で突然トルコ中銀のアーバル前総裁が解任され大幅下落しました。後任のカブジュオール総裁は19%の政策金利を維持していますが、リラ安傾向が概ね継続しています。ハト派(金融緩和を選好)と称されるカブジュオール総裁ですが、利下げをしたわけではありません。足元のリラ安の背景を改めて振り返ります。
トルコリラ安が続く背景の一つとして、政治の介入、より具体的にはトルコのエルドアン大統領による口先介入があげられます。先日もエルドアン大統領は中央銀行と会談し利下げを求めたこと、そしてご丁寧にもその時期が7月か8月であると公言しています。1年前のように、政策金利がインフレ率を大きく下回る水準であった時ならばこのような議論は論外ですが、現在のようにインフレ率を上回る19%の政策金利がいつまで適正かという議論は中央銀行の内部で行われるのはありえます。しかし、政治が利下げの時期にまで言及したことは市場にマイナスの反応となりました。
皮肉なことに、トルコのインフレ率が低下したことが、政治の介入を強めるとの懸念から、市場がリラ安で反応すると言うことも見られました。トルコの5月のCPIは依然高水準ですが、市場予想、前月を下回りました。過去にも指摘してきたことですが、トルコのインフレ率は過去のリラ安もしくは食料品価格の上昇が要因であることから、今年の夏ごろからの低下が想定されていました。アーバル前総裁はインフレ率の低下を確認してからの利下げという青写真を示唆していました。「たられば」を述べても仕方ありませんが、別の展開があったのかもしれません。
トルコの流動性懸念も引き続きリラ安要因と見られます。格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは昨年9月にトルコを格下げしています。最大の理由は外貨準備高の大幅減でした。年初まで外貨準備高は改善しましたが、足元再び減少傾向です。また、経常収支の赤字も続いています。トルコの外貨収入を支える1つが観光収入です。例年夏が稼ぎ時ですが、新型コロナ対策が進んで旅行客の受け入れが今夏に整うかは不透明です。
最後に、西側諸国との関係悪化もリラ安要因と見られます。特に交渉相手となっているのは米国で、バイデン米大統領とエルドアン・トルコ大統領は14日に会談を行いましたが、具体的な成果は乏しかったようです。対話の課題はシリア情勢やトルコが配備したロシア製地対空ミサイル防衛システムです。米国はロシア製ミサイル防衛システムに関連した制裁解除の見返りに同ミサイル防衛システムの廃棄を求めていると見られます。一方トルコは今のところ姿勢を変えていない模様です。ただ両国は対話の継続を示唆しており、政治問題ゆえ今後の展開を占うことは困難ですが、両国の間で何らかの妥協点が見つかるまではリラの下押し要因と思われます。
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