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ブラジル、高水準に政策金利を維持する理由
梅澤 利文
2023/03/27

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概要

ブラジルの政策金利は名目ベースでも、また実質ベースでも高水準と見られ、引き締め姿勢が強いとみられます。ブラジル中銀の物価上昇懸念が根強いことがうかがえます。一方、ブラジルのインフレ率は低下傾向です。もっとも物価押し下げ要因の中には価格抑制政策も含まれています。ブラジル中銀は財政政策の今後の展開などを見据え、物価の行く末を慎重に見守っているように見受けられます。




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ブラジル中銀、インフレ率は低下傾向ながらインフレ見通しを引き上げ

ブラジル中央銀行は2023年3月22日に開催した金融政策決定会合で、政策金利を市場予想通り13.75%で据え置くことを決定しました。据え置きは5会合連続で、決定は委員の全会一致となりました。ブラジル中銀は声明文で、欧米で金融不安が強まっている点を指摘しましたが、インフレ懸念が根強いとして高水準の政策金利を維持しました。

ブラジル地理統計院が3月24日に発表した3月の消費者物価指数(IPCA-15)は、前年同月比で5.36%上昇し、前月の5.63%上昇を下回りました(図表1参照)。前月比は0.69%上昇で、こちらも前月を下回りました。一方、ブラジル中銀のインフレ率見通しは23年が5.8%と、前回の会合時での見通しである5.6%から上方修正しています。

ブラジルのインフレ率は低下傾向だが、今後の展開も確認が必要

ブラジル中銀は政策金利を高水準で据え置き、タカ派(金融引き締めを選好)姿勢を維持しました(図表2参照)。政策金利を実質ベースで見ると、足元8%弱で推移しています(図表2参照)。一方ブラジルの実質中立金利(インフレを加速も減速もしない水準の目安)は、ブラジルのインフレ・レポートから、恐らく4%程度と見られることから、ブラジル中銀は引き締め水準にあると思われます。

その効果なのか、ブラジルのインフレ率は図表1にあるように減速傾向と見られます。そこで、インフレ率の中身を確認すると、今後の展開に不確実性も残ります。例えば、ガソリン価格の動向です。ガソリン価格は昨年後半から前政権の価格抑制策を受け概ね下落基調でしたが、3月は大幅なプラス(前月比5.76%)に転じました。月初からの連邦燃料税の再開などが背景と見られます。ブラジル中銀は声明文で、連邦燃料税の再開は財政改善にプラスと歓迎する一方で、ルラ新政権の政策運営を注意深く見守る姿勢を強調しています。

物価項目のうちのサービス価格については、教育費の急落で3月は低下しましたが、サービス価格は項目により月ごとの変動が大きくなっています。ブラジル中銀は個別項目の変動に加え、今後のインフレ率を見通す上で、期待インフレ率や通貨レアルの動向に注意を払っている印象です。

そこでブラジルの期待インフレ率(図表2参照)を1年後の市場における期待ベースでみると足元は5.5%前後で推移しています。ブラジル中銀の23年の物価目標は3.25%±1.5%で、上限は4.75%です。期待インフレ率の動きは横ばいで落ち着いていますが、水準は物価目標を上回っています。ブラジル中銀は声明文で物価が自身の見通しを上回るリスク要因の1つとして(長期の)期待インフレ率の上昇を指摘しています。今後も期待インフレ率を注意深く見守る姿勢と見ています。

ブラジルの通貨レアルは金融政策の引き締め効果を享受できずにいる

次に、レアルの動向をみると、緩やかな下落傾向が続いています。新興国通貨は昨年後半米国が利上げ幅の縮小を示唆したことなどから、全般に上昇傾向で、同じ南米のメキシコ・ペソやチリ・ペソは昨年後半から概ね上昇を維持しています。

なお、横道にそれますが、今月になり欧米の金融不安を受け、レアルも含め、新興国通貨は下落しました。しかしこの1週間ほどでは対ドルでマイナスとなった新興国通貨は少数にとどまり、回復しています。欧米の金融不安の波及効果は今のところ比較的小さいように思われます。


再び、レアル安の要因に焦点を当てると、昨年はボルソナロ前政権とルラ現政権の財政政策をめぐる財政規律の喪失が懸念要因でした。

もっとも、ルラ大統領が昨年末の就任前、歳出上限制度(歳出の伸び率を前年のインフレ率以下に抑える等)を骨抜きとするため憲法改正を試みましたが、議会の強い反対により目論見通りとなりませんでした。しかし、市場の安心は長続きせず、ルラ大統領は中銀の人事介入をちらつかせながら、利下げを暗に求めています。この中銀独立性が守られるかに対する懸念が、レアルの下押し圧力となっています。確かに、政策金利は引き締め水準となってはいますが、中銀の独立性維持はこれとは別次元の問題であると思われます。財政政策拡大懸念も含め政治の対応と、期待インフレ率の動向がブラジル中銀のインフレ懸念要因と見られ、利下げに対し慎重な姿勢を続ける背景とみています。

なお、欧米の金融不安がブラジルのインフレ動向にどの程度影響すると考えているのかはわかりませんが、この点は月末のインフレ・レポートで確認することになると思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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