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日銀、方針を決定しただけでも、円安加速は回避
梅澤 利文
2024/06/17

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渋滞イメージ 東京

概要

日銀は6月14日に終えた金融政策決定会合で、市場予想通りに政策金利を据え置きました。一方、注目の国債の買い入れ額については減額の方針を決定するにとどめ、詳細は7月会合に先延ばしとしました。会合後の記者会見で植田総裁は、国債買い入れの減額は相応の規模であることや、円安の物価への影響に配慮したことから、会見前に進行していた円安は、会見を終えた後にやや落ち着きました。




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日銀、6月会合で政策金利は据え置き、焦点は国債買い入れ額の減額

日本銀行は6月14日に終えた金融政策決定会合で、市場予想通りに政策金利を0-0.1%程度に誘導する方針を維持しました。一方、注目の月間6兆円程度としている長期国債の買い入れ額については減額の方針を決定しました。ただし具体策は次回の7月会合(7月30日~31日)で決めるとしています。

植田総裁は会合後の記者会見で減額は「相応の規模になる」との見解を示しました。今回の会合では国債買い入れ額の減額方針が決められただけにとどまったこともあり、市場では円安、国債利回り低下が一時的にみられました。しかし植田総裁の会見後に、市場は概ね落ち着きを取り戻しました(図表1参照)。

国債買い入れ額の減額について、具体策は先送り

今回の日銀会合では①追加利上げの有無、②長期国債の買い入れ額の減額、がテーマとなる中、③植田総裁の会見で①、②について、どのように発言するのかに注目が集まりました。

①について、今会合で政策金利は据え置かれたうえ、②に関して7月の会合で今後1~2年程度の具体的な計画が発表されることから、同時に利上げをする可能性は後退したと見られ、やや関心が後退しました。金利先物市場における利上げの織り込み度合いは会合後に若干低下しました。

ただし、植田総裁は会見で、7月会合での利上げの可能性を問われ、「その時までに出てくる経済・物価情勢に関するデータないし情報次第で、短期金利を引き上げて金融緩和度合いを調整することは当然あり得る」と述べています。前回の会合では、植田総裁の記者会見での発言が、円安を容認したようにも受け止られ、為替市場で円安が急速に進行したことを思い起こせば、今回の会合で植田総裁は円安の思惑を生まないよう発言には注意を払っていた印象です。

今回の会合の主要テーマは②の国債買い入れ減額の有無でした。3月の会合で、日銀の金融政策運営は短期金利操作を主たる手段とする枠組みに移行するとしました。しかし、日銀は5月13日の定例の国債買い入れオペ(公開市場操作)で、残存期間「5年超10年以下」の買い入れ額を約500億円減額したことや、国債買い入れ額減についての観測報道などを受け、今回の主役は②の国債買い入れ額減の有無となった印象です。

日銀は当初の発表(「当面の金融政策運営について」)で国債買入れを減額するという方針を決定しただけで、市場の一部にあった今会合での具体化は先送りされました。市場で見られた一時的な円安は、この肩透かし的な発表に失望した面もありそうです。ただし、植田総裁の会見後に円は概ね発表前の水準となりました。

国債買い入れの減額は慎重に進め、今後は利上げが主要テーマに

会見などから浮かび上がる国債買い入れ額減の姿は、「相応の規模」の減額を市場参加者の意見を参考に決めるというものです。

現在の国債買い入れ額は月6兆円が目安とされ、実際、5月は5.7兆円、4月は5.4兆円が購入されました。これは保有国債の償還分に概ね相当し、日銀の国債保有残高を維持する金額と認識されています。会合前の市場予想では月6兆円の買い入れ額を5兆円以下にするのではないかなどの見方がありました。植田総裁が会見で示したのは具体的な数字はなく、「相応の規模」を市場参加者の意見を参考に、最後は日銀が責任を持って決めることでした。市場参加者の意見が反映されるなら、比較的大きな数字が決定される可能性もあり、当面は金額に身構える姿勢と思われます。

日銀が保有する国債の残高は、24年3月末時点で約589兆6600億円(含む国庫短期証券)です。月6兆円の買い入れを、仮に5兆円にしたとしても日銀の保有国債規模の縮小に与える影響は限られます。ちなみに米国では月間の償還額を米国債については最大600億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)は月間350億ドルとし、合計950億ドル(約14.9兆円)のペースで保有債券の規模を縮小した時期もありました。最近では保有規模縮小が進んだことから、ペースを落としています。

日銀はこれから国債保有残高を縮小し始めることから、米国ほどの規模ではなく、当初の1~2年は市場参加者の声を参考に、国債利回りの急上昇を回避した「相応の規模」を当面模索すると見られます。ただし、やがて市場の関心は金融政策の本筋である利上げにシフトすると見ています。先日の会合後の記者会見では国債買い入れ額減に関連する質問が多かったですが、利上げに関連するテーマも取り上げられました。植田総裁は利上げの判断の目安として景気の上振れや、円安がインフレに与える影響についても注視する姿勢を示しました。その意味で、足元軟調な日本の経済成長率の回復するタイミングに注目しています。

インフレはより重要でしょう。日銀が注目するコア消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)は4月分が前年同月比2.2%上昇と鈍化傾向に見えますが(図表2参照)、21日発表予定の5月分は電気料金の影響で2.6%の上昇が市場で予想さるなど押し上げ要因が複数あるからです。また、輸入物価指数も足元じり高傾向です。仮に更なる円安進行となれば、輸入物価指数の上昇も想定されます。

円安が基調的なインフレに影響をあたえる可能性などを踏まえると、9月か10月の利上げには相応の可能性があると筆者は見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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