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緊急経済対策の考え方
市川 眞一
2020/04/14

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概要

4月7日、安倍晋三首相は、『改正新型インフルエンザ特措法』に基づき、7都府県に緊急事態を宣言した。同時に、総事業規模108兆円に上る大型経済対策を発表したのは、緊急事態による景気の落ち込み、株価下落のリスクに配慮したものだろう。新型ウイルス下の経済政策は、人の活動を不活性化することにより、経済の縮小を覚悟しなければならない。感染を収束させるためには、人の動きを可能な限り止めなければならないからだ。もっとも、その課程において所得・売上減に直面する世帯、企業に対しては、十分な支援策を講じる必要がある。今回の経済対策は、見た目の金額を大きく積み上げているものの、2020年度補正予算の一般会計が16兆7千億円に留まっており、実態はそれほど大きなものではない。内容は、経済収縮期において困難に直面する世帯・企業への支援策が中心だ。感染収束にメドが立てば、通常の追加経済対策が検討されることになるのではないか。とは言え、財政に与えるダメージは小さくない。長期的には、通貨価値の不安定化につながる可能性がある。



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緊急事態については、「ロックダウン(都市封鎖)」とのイメージが一人歩きした。しかし、日本の法体系は、政府にそうした権限を与えていない。ただし、都府県知事による要請とは言え、商業施設やレジャー施設の休業が相次ぎ、日本経済が大きなダメージを受ける可能性がある。だからこそ、安倍首相は、緊急事態宣言とセットで緊急経済対策を発表したのだろう。

 

 

今回の新型コロナウイルスは、中国武漢市に始まり、欧州、米国に飛び火して猛威を振るった。これらの地域については、感染の拡大に収束の兆しが見られる一方、足下、日本は本格的な感染者の増加期に入ったようである。政府としては、緊急経済対策の策定を待ち、慌てて緊急事態宣言に踏み切った感が強い。

 

 

新型ウイルス下においては、感染拡大を抑止することが最大の経済対策だ。従って、景気の縮小を覚悟した上で、人の不活性化に注力しなければならない。その課程においては、所得・売上高の急減する世帯、企業を支援することが必要だ。こうした施策が実って感染収束のメドが立てば、ようやく人・企業を活性化するための通常の景気対策が機能するだろう。

 

 

緊急経済対策は、総事業規模こそ108兆2千億円と大きいものの、2020年度補正予算の一般会計は16兆7千億円に留まっている。これは、現段階において困難に直面する世帯、企業の資金繰り支援が中心だからであろう。新型ウイルスの感染収束にメドが立てば、安倍政権は、追加の景気対策により経済の押し上げを図る考えなのではないか。

 

 

緊急経済対策の実質的な規模は大きくないとは言え、日本の財政が非常に厳しいなか、国と地方を合わせた債務の対GDP比率は200%を大きく超え、今や加速の兆候を示している。さらに、追加景気対策を打つことが予想され、改善のメドは立っていない。日銀の資産規模の膨張と共に、この公的な「双子の肥満」は、長期的には通貨の不安定化を生むのではないか。

 

 

今回の緊急経済対策は、社会不安・信用不安を起こさないことに重点が置かれている。従って、新型ウイルスが収束の方向へ向かえば、景気浮揚のための経済対策が検討されるだろう。当面、日本経済は急速な収縮が予想される。その後は、大量の流動性供給によるバブル、そして、「財政・金融双子の肥満」による通貨下落のリスクを念頭に入れるべきではないか。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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