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米国の新たな政治状況
市川 眞一
2022/12/20

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概要

11月8日の中間選挙、12月6日のジョージア州にける上院議員の決選投票を経て、2023年1月に始まる連邦議会の全議席が確定した。ジョー・バイデン大統領の与党である民主党は、下院で7議席を失い、少数与党になったものの、上院で過半数を維持する悪くない結果となった。キルステン・シネマ上院議員の離党はあったが、同党の実質的な勢力は変わらないだろう。もっとも、バイデン大統領自身の支持率は低空飛行を続けている。同大統領が2024年11月に再選されるためには、2023、24年の景気が極めて重要だ。戦後、中間選挙後の2年間において米国がマイナス成長となった場合、再選された大統領は1人もいない。雇用市場が極めてタイトななかで、バイデン政権はインフレの抑制による経済成長の持続を目指すだろう。一方、共和党は、今回の中間選挙において、ドナルド・トランプ前大統領が推す候補者が激戦州で軒並み敗北した。フロリダ州のロン・ディサンティス州知事など、2024年に向け新たな大統領候補を模索することになりそうだ。



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■ シネマ上院議員の離党は、バイデン大統領にとり打撃とは言えず

ジョージア州の決選投票で民主党のラファエル・ウォーノック氏が再選を決めた直後、アリゾナ州選出のシネマ上院議員が離党を表明した。ただし、同党の大統領候補にもなったバーニー・サンダース上院議員も、通常は無所属として活動している。シネマ議員は民主党の会派を通じて委員会に参加する意向を示しており、野党的な存在を目指すわけではないようだ。議会の勢力に大きな変化はないだろう。

 

■ 与党の議席が増加したのは1回だけ


戦後、トランプ前大統領まで12人の大統領のなかで、1期目の中間選挙において、全議席が改選となる下院で議席の積み上げに成功したのはジョージ・ブッシュ大統領のみだ。同時多発テロから1年後の特殊な環境だったからだろう。与党は平均で27議席を失っており、今回の7議席減はバイデン大統領にとって健闘と言える。中間選挙の結果は、2年後の大統領選挙を左右するわけではない。

 

■ 再選成功、失敗の両グループに経済的特徴

第2次大戦後、再選を目指した11人のうち、再選された7人に共通するのは、中間選挙後2年間の米国経済が実質プラス成長だったことだ。一方、再選されなかった4人は、いずれかの年で米国がマイナス成長だった。つまり、大統領が再選されるための必須条件は、中間選挙後の景気と言えるだろう。バイデン大統領が2024年11月の選挙で再選されるためには、2023、24年の経済状況が極めて重要だ。


 

■ インフレ率が低下すればプラス成長へ


2022年前半、米国は2四半期連続で実質マイナス成長だった。もっとも、前期比年率▲0.9%成長だった4‐6月期、名目成長率は同7.8%と高い。また、7‐9月期の名目成長率は4‐6月期より低下したが、実質成長率は2.6%だ。雇用が堅調で米国の消費者は財布の紐を絞っておらず、物価が落ち着けば、実質ベースで成長が可能と言えるだろう。バイデン政権にとって、インフレ抑止が最重要課題と言える。

 

■ バイデン大統領の支持率は物価が大きく影響

ABC系のニュースサイト、Five Thirty Eightによれば、足下、バイデン大統領の支持率は42.8%であり、不支持率の51.7%を大きく下回っている。ただし、同時期におけるバラク・オバマ大統領の支持率も42.8%であり、1期目中間選挙の前後としては特に低いわけではない。バイデン大統領にとっては、物価を抑えて実質賃金の伸びをプラスにした上で、実質ベースでの経済成長を定着させることが重要だろう。


 

■ 中間選挙後、ディサンティス知事がトランプ前大統領を猛追


2024年11月へ向けた共和党の大統領候補レースでは、今のところ既に出馬表明したトランプ前大統領が先頭を走っている。そうしたなか、今回の中間選挙を経て、フロリダ州のディサンティス知事が、他の有力と言われる候補者から一歩抜け出した。共和党のジレンマは、トランプ前大統領なら無党派の支持を失い、同前大統領以外だと熱烈なトランプ支持層を失いかねないことだろう。

 

■ バイデンvs. トランプ ほぼ互角

2024年の大統領選挙が現職のバイデン大統領対前職のトランプ大統領の場合、現時点では両者への支持が拮抗した状態だ。ただし、トランプ前大統領への支持は若干ながら減少傾向にある。今後、バイデン大統領が経済政策運営に失敗、インフレ圧力が高まれば、同前大統領が勢いを回復する可能性は否定できない。ただし、中間選挙の結果を受け、人気に陰りが見え始めたことは間違いないだろう。

 

■ ディサンティス知事の知名度は全米レベルへ

2024年の大統領選挙がバイデン大統領対ディサンティス知事の場合でも、両者への支持率は概ね拮抗するようになった。それは、ディサンティス知事が全国的に知名度を拡げ、大統領候補として認知されつつある状況を示すのではないか。ただし、同知事にとって、共和党の指名を獲得し、大統領選挙で勝つには、トランプ前大統領の熱狂的な支持層の取り込みが課題になる。ハードルは低くないだろう。

 

■米国の新たな政治状況:まとめ

シネマ上院議員が民主党を離党したものの、中間選挙は、バイデン大統領にとって悪い結果ではなかった。決選投票となったジョージアをはじめ、トランプ前大統領の支持する候補が激戦州で敗れたことも、同大統領には追い風だ。もっとも、現職大統領が再選される条件は、中間選挙後2年間、即ち2023、24年の米国経済の動向と言える。雇用が強いことを活かし、FRBとの協調によりインフレ抑制と景気のバランスを取れるか、重要なポイントになるのではないか。共和党は、ディサンティス知事が急速に知名度を上げている。トランプ前大統領の支持者を取り込めれば、非常に有力な候補になるだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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