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序盤戦を迎えた米国大統領選挙
市川 眞一
2023/10/03

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概要

2024年11月5日の本選へ向け、米国大統領選挙が序盤戦に突入した。まずは民主党、共和党共に候補者の選定レースが本格化する。民主党の場合、現職のジョー・バイデン大統領の指名は動かし難いのではないか。一方、共和党は今のところ各種世論調査でドナルド・トランプ前大統領が独走している。もっとも、1月15日にオハイオ州で口火を切る各州の党員集会・予備選挙の状況によっては、有力な対抗馬が浮上する可能性は否定できない。トランプ前大統領がかならずしも共和党主流派の支持を受けているわけではないからだ。3月5日に同党全代議員の35.0%に相当する865名が選出されるスーパーチューズデーを迎えるが、この段階で大勢が決するまで、まだ変化の余地は残されている。トランプ前大統領が欠席した2回の共和党候補者討論会を終えた段階では、フロリダ州のロン・ディサンティス知事が失速傾向である一方、ニッキー・ヘイリー前国連大使が急浮上した。トランプ前大統領との争いとなれば、共和党の伝統的候補対異端児の戦いとなろう。



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■ バイデン大統領の支持率は低位安定

大統領選挙まであと13か月となるなか、バイデン大統領の支持率は低位安定傾向だ。今年81歳を迎える年齢に加え、ガソリンを中心とする物価の高止まり、自身の子息の起訴などがあり、有権者の信頼を高めるには至っていない。ただし、再選されたロナルド・レーガン、バラク・オバマ両大統領もこの時期は支持率が40%台前半であり、現在の世論調査で来年の大統領選挙本選を占うのは困難だ。

 

 

■ 再選成功、失敗の両グループに経済的特徴

戦後、再選を目指した11名の大統領のうち、再選された7名の場合、1期目の中間選挙後2年間、つまり大統領選挙の前年、当年は米国の経済成長率がプラスだった。一方、再選に失敗した4名の大統領は、当該2年間の何れかがマイナス成長である。2023年は実質経済成長率がプラスになる見込みのため、バイデン大統領にとり2024年の景気が再選へ向け極めて重要な意味を持つだろう。

 

 

■ 今のところトランプ前大統領が独走

共和党の候補者指名レースでは、世論調査の結果によると、現段階ではトランプ前大統領が独走状態になっている。一方、フロリダ州のロン・ディサンティス知事の失速が鮮明になった。トランプ前大統領との差別化ができていないことが理由だろう。そうしたなか、ヘイリー前国連大使、実業家のヴィヴェット・ラムスワミ氏が、まだ低水準ではあるものの、候補者討論会などを通じて支持率を上昇させている。

 

 

■ スーパーチューズデー(3月5日)で大勢判明

共和党の正式な候補者選考は来年1月15日のアイオワ州における党員集会から始まる。このアイオワと次のニューハンプシャー州の結果は、同党全代議員の35.0%が決まる3月5日のスーパーチューズデーへ向け、大きな意味を持つのではないか。過去の大統領選挙においても、無名、劣勢と言われていた候補者が、最初の2,3州における健闘によって、一気に先頭集団に追い付くことが少なくなかった。

 

 

■ アイオワ、ニューハンプシャーの影響は極めて大きい

このところ共和党候補で注目されているのは、実業家のヴィヴェック・ラムスワミ氏、そしてニッキー・ヘイリー前国連大使に他ならない。CNNが地元の大学と9月14~18日に共同で行ったニューハンプシャー州の世論調査で、この2人がディサンティス知事を抑えて2、3位を確保したからだ。まだ先行するトランプ前大統領とは差があるものの、泡沫候補の選挙戦離脱に連れて、さらに支持率を高める可能性は否定できない。

 

 

■ ヘイリー前国連大使はバイデン大統領を5%ポイントリード

9月15~19日にNBCが行った全米の世論調査では、来年11月の本選に関しバイデン大統領の相手がトランプ前大統領、ディサンティス州知事なら拮抗する一方、ヘイリー前国連大使の場合はバイデン大統領を5%ポイント上回る結果だった。こうした「誰ならバイデン大統領に勝てるか」との発想は、共和党の候補者レースが佳境を迎えた場合、候補者を選ぶ重要な要素になる可能性が強い。

 

 

■ 南部の州出身者が半分を超える

バイデン大統領は、戦後、12人目の大統領だが、このうち7人は南部の州出身だった。一方、米国の政治・経済の中心とも言えるコロンビア特別区(ワシントンD.C.)、ニューヨーク、そしてハーバード大学やイエール大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)など世界最高峰の教育機関のある北東部を基盤とする大統領は、マサチューセッツ出身のJ・F・ケネディとニューヨーク出身のトランプ前大統領のみだった。

 

 

■ 米国:共和党の有力な大統領候補

共和党有力候補者で南部の出身者はサウスカロライナ州のヘイリー氏、フロリダ州のディサンティス知事の2人だ。一方、マイク・ペンス前副大統領は中西部のイリノイ州、ヴィヴェック・ラムスワミ氏も同じく中西部のオハイオ州出身だ。北東部のニューヨーク州出身であるトランプ前大統領が、フロリダ州のマルアラーゴに主な住居を移したのは、歴代大統領の出身地を意識した面もあるのではないか。

 

 

■ 序盤戦を迎えた米国大統領選挙:まとめ

民主党は現職のバイデン大統領が指名を獲得すると見られる。一方、共和党の場合、トランプ前大統領が独走状態だが、同前大統領との差別化ができ、共和党内の穏健派を惹き付けられる素養と政策を持つ候補が急浮上する可能性がある。外交戦略、2020年の大統領選挙への立場、連邦議会襲撃事件に対する見解、出身地などから見ると、ヘイリー前国連大使が最右翼なのではないか。同氏への期待がさらに高まるようなら、共和党主流派が支持に回り、有力候補となることは十分に考えられよう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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