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1年を切った米国大統領選挙
市川 眞一
2023/11/14

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概要

2024年11月5日の米国大統領選挙まで1年を切った。現職のジョー・バイデン大統領は支持率が低迷、共和党の候補者レースを独走するドナルド・トランプ前大統領は4件の起訴で公判対策に追われている。次期大統領の座がこの2人で争われると決まったわけではない。共和党の場合、候補者指名レースの序盤となるアイオワ、ニューハンプシャー、ネバダ3州の党員集会・予備選の結果によっては、新たな候補者が急浮上することも考えられる。その場合、失速傾向にあるフロリダ州のロン・ディサンティス知事ではなく、ニッキー・ヘイリー前国連大使の動きが注目されよう。一方、今月20日に81歳となるバイデン大統領に関しては、これまで民主党内に有力な対抗馬が現れなかった。もっとも、リンドン・ジョンソン大横領がそうだったように、再選が厳しくなれば、出馬を辞退するシナリオがあり得るのではないか。2024年の大統領選挙は、カマラ・ハリス副大統領とヘイリー前国連大使により、どちらが勝っても初の女性大統領誕生となる可能性もゼロではなさそうだ。



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■バイデン大統領は現職の強みを発揮できず支持は拮抗

10月7日にイスラム教過激派集団のハマスがイスラエルを攻撃して以降、低水準を推移していたバイデン大統領の支持率がさらに低下し、相対的にトランプ前大統領が浮上した。2021年8月のアフガニスタンからの米軍撤退が混乱して以降、バイデン大統領の中東政策は誤算が続いており、パレスチナ情勢は新たなダメージとなったようだ。特に若年層が離れ、再選には黄色の信号が点灯した。



■パレスチナ、経済がバイデン大統領の弱点化

ニューヨークタイムズは、大統領選挙で最重要とされるジョージア、アリゾナ、ミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシン5州において、争点となる6項目に関し、バイデン大統領とトランプ大統領のどちらを支持するかを尋ねた。結果は、パレスチナ問題、安全保障、移民、経済についてはいずれの州でもトランプ前大統領に軍配が上がっている。バイデン大統領は現職の強みを活かせていない模様だ。



■ 2件は司法省特別検察官、2件は州の地区検察官により起訴

トランプ前大統領は、3月以降、4件の容疑で起訴された。憲法による大統領の要件は、1)米国生まれ、2)35歳以上、3)米国に14年以上居住・・・であり、起訴は立候補の障害ではない。ただし、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件への関与が認定された場合、同前大統領が大統領としての資格を欠く可能性がある。選挙に勝ったとしても、訴訟合戦となり大統領の職務に影響が出るとの懸念は拭えない。



■ 今のところトランプ前大統領が独走

ABCが運営するニュースサイトのファイブ・フォーティーエイトの集計では、11月7日現在、トランプ前大統領の支持率が56.6%へ達するのに対し、フロリダ州のロン・ディサンティス知事は14.0%、ニッキー・ヘイリー前国連大使8.9%、実業家のヴィヴェック・ラムスワミ氏が5.2%だった。一時はトランプ前大統領に迫っていたディサンティス知事が失速したことで、共和党の候補者レースは現段階においてトランプ前大統領が独走している。



■ 共和党は1月15日のアイオワ州党員集会から本格的な指名争いへ

共和党は1月15日にアイオワ州で党員集会、22日頃にニューハンプシャー、2月6日にネバダ州で予備選を行い、半年弱に及ぶ候補者指名レースを開始する。この3州で勢いが付くと、15州と米国領サモアで併せて874名の代議員が決まる3月5日のスーパーチューズデーへ向け、ダークホースが急浮上することはこれまでも多々あった。トランプ大統領が4件の訴訟を抱えるなか、共和党の候補者指名はまだ不透明な要素が残る。



■ 共和党候補者レースの口火を切る2州でヘイリー元国連大使が健闘

共和党候補者レースの先駆けとなるアイオワ、ニューハンプシャーでは、トランプ前大統領が50%近い支持を得ている。ただし、このところヘイリー前国連大使の支持率が上昇、ニューハンプシャーでは失速気味のディサンティス知事を上回った。保守派でありながら強硬派とは一線を画し、ウクライナへの軍事支援にも積極的な同氏は、予備選における序盤の戦いぶりにより有力候補となる可能性がありそうだ。



■ ミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシンは”Rust belt”

2020年の選挙でバイデン大統領が勝利したのは、2016年にトランプ前大統領が勝利したジョージア、アリゾナ、ミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシンの5州を制したからだ。これ以外に2016年と2020年の結果が異なった州はない。”Rust belt(赤錆びた工業地帯)”のミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシンを中心に、来年11月の大統領選挙においてもこの5州が最大の激戦地となるだろう。



■ ヘイリー氏への支持はトランプ前大統領を上回る

ニューヨークタイムズの世論調査では、激戦が予想される5州のうちジョージアを除く4州において、本選がバイデン大統領との戦いになった場合、ヘイリー前国連大使がトランプ前大統領の支持率を上回っている。ヘイリー氏は無党派層の支持を得る可能性が強く、仮に本選で闘う場合はバイデン大統領にとってトランプ前大統領よりも難しい相手なのではないか。それも、共和党員の判断に影響すると見られる。



■ 1年を切った米国大統領選挙:まとめ

高齢で支持率が低下しつつあるバイデン大統領、4件の起訴で大統領としての資格を問われかねないトランプ前大統領・・・いずれも勝ち切るには大きな問題を抱えている。年明けに民主、共和両党の候補者指名レースが正式にスタートすれば、この2人に代わる候補が急浮上する可能性は否定できない。バイデン大統領が立候補を辞退するシナリオもあり得るのではないか。その場合、民主党はカマラ・ハリス副大統領が後継候補として急浮上し、2大政党が揃って女性の候補を擁立することも考えられる。




市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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