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米国大統領選挙 アップデート⑤
市川 眞一
2024/10/08

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概要

米国大統領選挙は11月5日の投票日まで1ヶ月を切った。10月1日に副大統領候補によるテレビ討論会が終わり、両陣営による直接対決はもうない。政策を見ると、カマラ・ハリス副大統領は中低所得者層向け支援策や中絶の権利保護を中軸とし、ドナルド・トランプ前大統領は減税、規制緩和を強く主張している。リベラル色の強い「大きな政府」と新自由主義的な「小さな政府」の対立となり、両陣営とも伝統的な民主党、共和党の政策に回帰したと言えるだろう。そうしたなか、トランプ前大統領による金融政策に対してのホワイトハウスの関与、基礎的関税の導入が際立っている。いずれも実現すれば新たなインフレ圧力になるのではないか。世論調査によれば、全国レベルではハリス副大統領が若干のリードを維持している。もっとも、アリゾナ、ペンシルバニア、ミシガンなど激戦が伝えられる7州では、両候補の支持率の差は依然として極めて小さい。資金力ではハリス副大統領が大きく先行するものの、今回の大統領選挙は歴史的な接戦と言えるだろう。



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■ 両副大統領候補とも中西部を地元とする白人を副大統領候補に選んだ

ハリス副大統領は、「ランニングメート」と言われる副大統領候補にミネソタ州のティム・ウォルズ知事を選んだ。大統領選挙で鍵となる”Rust belt(赤錆びた工業地帯)”ではないものの、同じ中西部で隣接する州であることが背景だろう。一方、トランプ前大統領が指名したJ.D.バンズ上院議員は、”Rust belt”を構成するオハイオ州選出だ。両陣営がこの地域を重視する姿勢を如実に反映している。



■ 民主党はリベラル色、共和党は小さな政府

今回の大統領選挙において、民主党は中低所得者層や子育て世帯への支援、中絶の権利保護を強く主張する一方、大企業向けの増税策を政策綱領に採用した。共和党は、保守政治の伝統に従い、減税、規制緩和により「小さな政府」を指向している模様だ。また、安全保障に関しては、ハリス陣営が同盟国との連携強化、トランプ陣営は同盟国による応分の負担・・・両候補の違いが明確になった。



■ トランプ政権下で関税率は大幅な引き上げ

トランプ前大統領の政策は共和党の伝統に基づくものだが、FRBの金融政策に対するホワイトハウスの介入、そして”Basic tariff(基礎的関税)”の導入・・・この2点は際立っている。2017年からのトランプ政権下においては、実際に米国の関税率は大幅に引き上げられた。こうした政策が実行された場合、米国経済のインフレ圧力が高まると同時に、国際的な通商戦争が激化するのではないか。



■ 全国レベルではハリス副大統領がややリード

ABC系ニュースサイト、ファイブサーティエイトの集計では、全国だとハリス副大統領の支持率が小幅のリードを維持している。ただ、米国大統領選挙は全米を1区として争うわけではない。州毎に割り当てられた合計538名の選挙人を選ぶ仕組みだ。2016年の大統領選挙では、全国の得票で上回ったヒラリー・クリントン元国務長官がトランプ前大統領に敗れた。激戦州の動向が選挙の結果を決めると言えよう。



■ 9月10日の候補者討論会でも差は開かず

ジョー・バイデン大統領が候補者指名の辞退を表明、ハリス副大統領が民主党の候補者となって以降、同副大統領の支持率はトランプ前大統領を上回る状況が続いている。ただし、唯一の直接対決となった9月10日の候補者討論会後も、両候補の支持率に顕著な変化はない。投票日まで大きなイベントは予定されていないだけに、今回の大統領選挙は開票が終わるまで当選者が確定しない可能性が強まった。



■ スウィングステート7州が勝敗を決する

民主党のシンボルカラーは青、共和党は赤だ。従って、全米50州及びワシントンD.C.のうち、民主党が強い州を”Blue state”、共和党の地盤を”Red state”と呼ぶ。最新の世論調査などの結果から、ハリス副大統領は”Blue state”で226名、トランプ前大統領は”Red state”で219名の選挙人を獲得する可能性が強い。ただ、どちらも過半数の270名には到達しておらず、激戦州の動向が注目される。



■ 各州とも依然として僅差

今回の大統領選挙における激戦州は、アリゾナ、ジョージア、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシンの7州だ。各州の世論調査を見ると、足下、いずれも僅差となっている。ハリス副大統領にとっては、若干リードしているペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州で勝てば、選挙人は過半数の270名に到達する計算だ。逆にトランプ陣営は、その阻止に集中するだろう。



■ 資金力はハリス副大統領が圧倒

米国の大統領選挙は、テレビCM、SNS広告などを多用するため、資金力が極めて重要だ。現時点において、”Super PAC(特別政治活動委員会)”と呼ばれる外部委員会が集めた寄付は、両陣営が互角となっている。一方、選対委員会が直接集めた資金は、ハリス副大統領がトランプ前大統領を圧倒した状態だ。これは、選挙の最終版におけるキャンペーンの物量に影響を及ぼす可能性が否定できない。



■ 米国大統領選挙 アップデート⑤:まとめ


米国大統領選挙は、投票日まで1ヶ月を切っても接戦が続いている。大統領候補、副大統領候補によるテレビ討論会が終わり、双方が直接対決するイベントはもうない。両陣営共に勝ち切るには決め手に欠け、選挙の帰趨は開票が終わるまで分からないだろう。ハリス副大統領は、民主党の地盤に加え、激戦州のうちペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシンで勝てば勝利に近づくため、この3州の攻防が結果を決めるものと見られる。トランプ陣営にとっては、資金力が終盤戦を戦う上で課題となりそうだ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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