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「トランプ政権」の人事と死角
市川 眞一
2024/12/10

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概要

第2次トランプ政権の人事が固まった。特徴は1)側近や熱烈な支持者の重用、2)減税・規制緩和の重視、3)通商政策の強硬派登用、4)国内のエネルギー開発促進、5)医療・社会保険制度で特異な政策の主張者採用・・・・の5点ではないか。大統領選挙において、ドナルド・トランプ次期大統領は減税と規制緩和を軸とする「小さな政府」的政策を中軸に据えた。一方、産業・通商政策に関しては、基礎的関税の導入により、米国内への向上誘致を目指すとしている。もっとも、関税は輸入国の輸入事業者が納税義務を負い、最終的には消費者に転嫁されるだろう。それは、新たな間接税と言え、極めてインフレ的な政策に他ならない。トランプ次期大統領は、国内でのエネルギー開発に注力、物価上昇を抑止する意向のようだ。ただし、原油、天然ガスの国際市況を大きく低下させるのは難しいだろう。財務長官候補となったスコット・ベッセント氏は、トランプ次期大統領実現を支えつつ、FRBと共にインフレを抑止する極めて難しい役割を担うだろう。



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■ 側近の登用が目立つ

トランプ次期政権の主要人事で目立つのは側近の登用だ。その代表例が、同次期大統領の政策を研究するために設けられたシンクタンク、アメリカ第一政策研究所(AFPI)の関係者から、創設者で農務長官候補のブルック・ロリンズ氏を含め4名が重要なポストの候補になった。また、司法関係者には、自らの法律顧問や刑事裁判で弁護団を構成した法律家が多く充てられているのが際立つ。



■ 減税・規制緩和による「小さな政府」が基調

大統領選挙におけるトランプ次期大統領及び共和党の政策は、減税や規制緩和に軸足を置く「小さな政府」を志向したものだった。一方、産業・通商政策に関して、基礎的関税を導入、全輸入品に10~20%、中国からの輸入品に60%、メキシコからの輸入自動車に100%、もしくは200%の関税を課すとしている。この税収は、高額所得者層を対象としたトランプ減税の恒久財源となる見込みだ。



■ 最初の中間選挙で大統領与党は苦戦の傾向

トランプ次期大統領の任期は4年に限られる。従って、2年後の2026年11月の中間選挙で共和党が連邦上下院いずれかで過半数を失えば、早くもレームダック化しかねないが、過去の例では就任して最初の中間選挙で与党は負ける傾向がある。それだけに、政策の実現にはロケットスタートが必要だ。主要人事で自らの側近を周辺に配したのは、政権の結束を維持して政策の実現を目指す意味があるだろう。



■ インフレがバイデン大統領の支持率に大きく影響した

ジョー・バイデン大統領の世論調査における支持率の推移を見ると、物価上昇率が高まるかで低下を余儀なくされた。トランプ次期大統領はバイデン政権がインフレを招いたと批判、選挙に勝った経緯がある。それだけに、物価は政権の安定に大きな意味を持つのではないか。財務長官候補となったベッセント氏は、FRBと共に財政政策、為替政策、金融政策を駆使してインフレの抑制を求められるだろう。



■ トランプ大統領は赤字の大きな国から順に制裁を課す

トランプ次期大統領は、鎮痛薬であるフェンタニルが違法に服用され、中毒が広がっていることに対し、製造元とされる中国、米国への流入ルートとしてメキシコ、カナダへの制裁関税発動を明言した。当該3ヶ国は、いずれも米国の貿易収支が大幅な赤字である通商相手国に他ならない。フェンタニル対策は重要としても、こうした措置を見る限り、第1次政権同様、数字で見える相手に対し関税を武器に交渉を迫る意向のようだ。



■ インフレ率が大幅に高まる可能性が高い

有力シンクタンクのピーターソン国際経済研究所は、9月26日、トランプ次期大統領の公約が実現した場合、消費者物価上昇率は現状より4.1~6.9%ポイント高まるとの推計を示した。特に基礎的関税の導入が、GDPの14%程度を占める輸入品価格を押し上げることで、強いインフレ圧力となる可能性は否定できない。また、相手国が制裁関税を発令することも考えられ、国際社会の分断が深まるだろう。



■ エネルギーに物価の押し下げを期待

2022年6月、米国の消費者物価は前年同月比9.1%上昇した。エネルギーの寄与度が+3.0%ポイント、食品が同+1.4%ポイントで、この二つが半分の要因を占めた。トランプ次期大統領は、国有地におけるシェール開発を進めるため、内務長官候補にシェール開発の盛んなノースダコタ州のダグ・バーガム知事を充てるなど、エネルギー自給率の向上で価格抑制を図る意向のようだ。



■ 米国の原油はフル生産状態

米国のシェール開発適地では、既に石油や天然ガスの生産が進められてきたと見られる。また、エネルギー価格がさらに下落した場合、事業者にとっては開発コストを捻出できなくなる懸念が台頭するだろう。従って、トランプ次期大統領が原油や天然ガスの政策面で支援しても、大幅な増産は難しいのではないか。インフレ圧力をエネルギーの価格低下でオフセットする目論見は、実現の壁が低くないと想定される。



■ 「トランプ政権」の人事と死角:まとめ


トランプ次期大統領は、基礎的関税により工場を国内誘致し、インフレ圧力をエネルギー価格の低下でオフセットすることにより、経済の持続的成長を目指すようだ。しかしながら、トランプ次期大統領の移民政策は、人手不足をさらに加速させるのではないか。また、原油・天然ガスの増産も容易ではないだけに、米国がインフレとなる可能性は低くないと考えられる。人事におけるキーパーソンは、財務長官候補のベッセント氏だが、政府高官としての経験がないだけに、その手腕は未知数だ。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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