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日銀、市場予想通りの現状維持で円安進行
梅澤 利文
2022/03/23

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概要

日本と米国の金融政策の違いや、日本が経常赤字となったことなど複数の要因を背景に、円安ドル高が進行しています。円安が節目となる1ドル=120円を超えた要因として、この週末をはさんで明らかとなった、日米の金融政策の方向性の違いが寄与していると見られます。これまでの当局の発言から、円安圧力は当面続く可能性もあると見られそうです。



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日銀金融政策決定会合:物価上昇の可能性は指摘するも、市場予想通り現状維持

日本銀行は2022年3月17日から2日間の日程で金融政策決定会合を開催しました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などを受け景気判断を下方修正しました。国内景気のリスク要因として、ウクライナ情勢が「経済・物価に及ぼす影響について極めて不確実性が高い」と明記しました。金融政策は現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の維持を賛成多数で決定しました。

日銀の黒田東彦総裁は会合後の会見で4月以降の消費者物価指数(CPI)は2%程度の伸びとなる可能性があることを指摘しました(図表1参照)。ただ、大半が商品市況高に伴う輸入価格の上昇によるものだとし、金融引き締めは適切でないとの認識を示しました。

日本のインフレ懸念は現段階では低く、政策対応もあり、長期金利は低水準で安定的に推移

米国の2月のCPIは前年同月比で7.9%の上昇でした。ロシアのウクライナへの軍事侵攻前の数字と見られ、その後のエネルギー価格の上昇と、恐らく米金融当局が懸念する新たな供給制約により、米国の高水準のインフレ率が長期化することも懸念されます。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は週明け21日に今後の会合で0.5%の大幅な利上げの可能性を示唆したのも、インフレ対応の優先順位を引き上げたからと受け止められます。

日本の2月のCPIは前年同月比で0.9%上昇で、確かに黒田総裁が会見で述べた通り、日本が金利を上げる必要は恐らく当面無いと思われます。

ただ、4月以降の日本のCPIが2%を超える可能性を黒田総裁も会見で指摘しています。携帯料金引き下げの影響が消失するからです。また、主に資源価格の上昇と円安などによる輸入物価の押し上げの影響も想定されます。

なお、日本でも輸入物価などを反映して企業物価指数は高水準です(図表1参照)。企業物価指数の動向が一時的なものなのか、CPIへの波及はあるかなどについて今後は注意が必要です。

米国のインフレ懸念が高まった1つの転機は昨年4月のCPIと思われます。その後、インフレが持続的なのかの判断に時間を要し、また債券購入政策を縮小後利上げ開始と準備があったため、利上げ実施までにある程度の期間が必要でした。

日本の場合、少なくとも足元のインフレ率は2%を下回っており、金融政策の変更は当面想定し難いと見られます。

なお、日銀の金融政策には長短金利の操作を行うことで特に長期金利を安定化させてきた「イールドカーブ・コントロール(YCC)」があります。日銀はYCCを2016年に導入しました(図表2参照)。YCCは短期政策金利をマイナス0.1%、長期金利(10年金利)をゼロ%程度に誘導するする政策で、これまでのところYCCは強力に機能してきたと見られます。YCCを支える有力な武器のひとつが指し値オペ(日銀が固定利回りで無制限に国債を買い入れるオペ)です。先月、日銀は日本の長期金利が上昇する兆しを見せたことから、指値オペを通知したことが市場の話題となりました。この時は日銀の通知を受けたことで金利上昇が後退し、長期金利の上限とされる0.25%を超えることなく、つまり日銀は長期国債を購入することなく金利上昇を抑制しました。

インフレが長期化し、円安が進むようであればYCCの運営が困難となる可能性もゼロではない

なお、YCCは世界でもまれな政策で、オーストラリア(豪)は20年3月に導入しましたが昨年撤廃しました。FRBもYCC導入を検討しましたが結局見送りました。FRBが導入を見送った主な理由は①水準設定が難しいこと、②国債購入の規模などのコントロールが困難なことなどを指摘しています。

水準設定が難しいのは、市場変動に応じてYCCの変動幅などを設定することなどがあげられます。足元では長期金利(10年国債利回り)は0.25%を上限としていますが、日銀も市場環境に応じて適宜上限などを見直し、柔軟性の確保に努めています。ただ、市場が変化するなかで適正な水準を設定し続けることは至難のわざと思われます。

国債の購入規模のコントロールの難しさについては、豪中銀が昨年11月に撤廃したケースを参考にします。豪中銀がYCCを導入してから昨年春ごろまで豪国債利回りはYCCの定める範囲で比較的安定して推移していました。しかし、米金利上昇と豪インフレ率上昇を受け、その後利回り上昇圧力が高まりました。市場は豪中銀がYCCを維持すると見込んでいましたが、、豪中銀は10月末に市場が期待していた国債購入を実施せず、乱暴な形で、YCCを終わらせました。YCCを維持するには市場相手に国債を購入しなければならず、これを回避した格好です。国債利回りの上昇圧力が強い場合にYCCを維持しようとすれば、その中央銀行のバランスシートの規模はコントロールしにくくなることが想定されます。

幸い、先の日銀の2月の指値オペ通知では長期金利は日銀が国債を購入することなくても0.25%を超えることなく、日本の国債市場は平静さが保たれています。

ただ、極端なケースを想定するとYCCには別の問題も浮き上がります。仮に日米でインフレが進行し、長期金利の上昇圧力が高まったとします。そこで日銀がYCCを維持しようとすれば、国債購入の規模の問題以外に、円安が進行することも懸念されます。日米の金融政策の違いが為替市場に反映される可能性があるからです。日本では若干の円安なら輸出へのプラス面も歓迎されるでしょう。しかし、円安の程度によってはインフレ加速のマイナス面が上回るケースも想定されます。これはYCCの出口戦略が容易ではないことを示唆しているようにも思われます。

今後の日銀の政策運営の展開を占うのは困難です。ただ日本を取り巻く経済環境に少なからず変化も見られる中、柔軟性を高めるなど用意周到な準備がいつかは求められるのかもしれません。


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梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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