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経済学のキホン④ ~経済思想史①~
2024/02/21

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概要

16世紀から18世紀の主な経済思想であった重商主義と重農主義を学ぶことで、現代社会でも問題となり得る保護貿易や自由貿易について理解を深めることができます。






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■経済思想史とは


今号より、経済思想史についてご説明していきます。経済思想は、時代ごとに主流となっていた経済に対する考え方やさまざまな出来事の背景にある価値観等を指し、その歴史である経済思想史を学ぶことは単に当時の時代背景を捉えるだけではなく、現代の経済用語や理論、課題とされている事象を理解、研究することに大いに役立ちます(図表1)。それでは、世界の経済活動が大きく変わったとされる商業革命以降の経済思想史とその変遷についてご説明します。


図表1:経済思想史について





■商業革命と重商主義~経済思想のはじまり~


先述の商業革命とは、コロンブスの新大陸発見、ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見に代表されるように、ヨーロッパ諸国がアフリカ、アジア、南北アメリカ新大陸へ進出したことにより、貿易ネットワークが世界全体に拡大したことを指します。貿易が世界全体に広がるとともに、新しい市場での取引拡大や資本の獲得、利益を独占するための植民地獲得等にヨーロッパ諸国は躍起になりました。こうした動きの背景に存在した経済思想が「重商主義」であり、産業革命前の16世紀末から18世紀注1にかけてヨーロッパ諸国で主流となりました。重商主義では、国が豊かになるために金や銀、貨幣の獲得と蓄積が不可欠と考え、そのための手段として農業ではなく商業を重視した経済政策を主軸に据えました。また、当時のヨーロッパ諸国は多くが絶対王政下にあり、国家統制のためには豊富な資金力が必要だったため、国が貿易取引への積極的な介入や管理に乗り出しました。こうした動きを言い換えると保護貿易の推進ともいえます。では、どのような方法注2で介入や管理を図っていたのかを確認していきましょう。

注1:時期区分の定義には諸説あります。注2:国によって重商主義の考え方やその実態は異なります。

まず、初期の重商主義の中で主流だった考え方が重金主義です。重金主義では、国内外の金・銀鉱山を積極的に開発し、直接生産する方法や輸出によって金銀を獲得する一方で、金銀の輸出は厳格に取り締まり、蓄積を図りました(図表2)。しかしながら、金銀の輸出を制限するということは、国外からの輸入産品の購入が制限されるということにもなります。そのため、モノが出ていくばかりで入ってこない状況は国内の物価高騰、すなわち貨幣価値の下落を招く要因となりました。


図表2:重金主義(初期の重商主義、スペインやポルトガルで発展)




重金主義の次に主流となった経済思想が貿易差額主義です(図表3)。単純に金銀の出入りを管理するのではなく、輸出を輸入より増やす政策をとり、その差額を拡大させることで国家の収入の増加、ひいては国富強化を図るという考え方です。主なポイントとしては「国内産業保護」、「高関税による保護貿易」、「植民地拡大」等があげられます。具体的には、まず国が直接的、あるいは間接的に国内の特定の産業を保護育成注3し、産業強化と保護を図りました。また、安定供給に欠かせない原材料を安価で確保することや同じく安定した輸出先や輸出量の確保のため、植民地の拡大に動き、そこでの産業や貿易も徹底管理しました。さらに輸入品には高い輸入関税を課すなどし、輸入規制を図る保護貿易的な政策をとりました。しかし、これらの保護貿易主義の先に待ち受けていたのは激しい侵略戦争でした。結果として、多くの植民地を得たイギリスが当時、世界貿易の覇権を勝ち得ましたが、貿易差額主義を進める国々では商工業に傾倒した産業強化や保護貿易主義への批判が高まり、自由貿易を主張する動きや商工業ではなく農業を中心にする重農主義等の経済思想が生まれました。

注3:フランスは直接的な国家介入を図り、イギリスは民間企業への特権付与という形で間接的に産業保護に介入しました。

図表3:貿易差額主義(産業革命前のイギリスを中心に発展)





■重商主義批判と重農主義~保護貿易から自由貿易へ~


重商主義への批判が高まる中で生まれた経済思想が重農主義です(図表4)。重農主義では、国が豊かになるためには農業の生産性を高めることが重要だと考えられました。ここで、この重農主義を主張した主な人物として、18世紀のフランスの経済学者であるケネーについてご説明します。ケネーは1758年に著した「経済表」で重農主義を主張し、古典派経済学の父と呼ばれるアダム・スミスに先んじて重商主義への批判と自由貿易を説いた人物でもあります。ケネーの主張における主なポイントとしては「重商主義(金、銀=富)への批判」、「農業の保護」、「自由貿易の推奨」です。具体的には、ケネーはまず、それまで商工業を発展させ、貿易を管理することで金・銀の蓄積を図った重商主義を批判し、そもそも国富の源泉は農業にあると主張しました。なぜなら、商業は既存のモノを等価で交換するだけ、工業は原材料を加工して姿かたちを変えているだけで、国富の総量自体を増大させる本質的な生産行為ではないと考えたからです。一方、農業においては、ひと粒の小麦から数十粒の小麦ができ、かつ毎年のように生産ができるため、農業だけが国富増大につながる新たな価値を生み出してくれると考えました。加えて、当時は自然の秩序に従い、人間社会は自然との調和を目指すべきという思想がありました。農業は自然の恵みを収穫する産業のため、このような価値観にも非常に親和性がありました。この思想はフィジオクラシーと呼ばれ、これこそが重農主義の語源となりました。この思想に沿って、ケネーは農業を保護育成する政策を中心に多くの予算を費やし、農業生産物を国外により多く輸出することで得た収入でさらに農業の生産性を高め、国富増大を図っていく方針を推奨しました。また、保護貿易による経済活動への抑圧が経済の発展を阻害するとも考え、商工業においても、その取引を自由に放任することを推奨しました。


図表4:重農主義(18世紀のフランスを中心に発展)


 



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